<参考26>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花


     【バラ科】  キイチゴ属 : ヒメカジイチゴ・クサイチゴ・ナワシロイチゴ

 

カジイチゴは普通海岸近くに多い。多摩川でも右岸の殿町の河口近くにある岸辺の草木地帯でよく見られる。ただ手掌型の葉は良く見るが花や実までは確認したことはない。
ヒメカジイチゴは小さいカジイチゴという意味で、葉はカジイチゴのように大きくはなく、形も5,6裂もするものはなく普通3裂である。カジイチゴと山野に出るニガイチゴとの交雑種という記述が見られる。ヒメカジイチゴも海岸付近で見られるとされるが、ここ六郷橋下の上手側に古くから定着して見られる。花は白い5弁花で、花びらが皺だらけのように見える特徴がある。
2013年には花を撮った後、実を撮り損ねていたので、紅葉を撮ってよしとし、2014年には課題の一つと意識して注意を払っていた。然し5月上旬早めに確認しに行ったところ、クサイチゴの方は辛うじて数個をゲットしたものの、多くの花を確認していたヒメカジイチゴの方は全く実が見付からなかった。

人通りの無い場所だけに、事情はよく分からないが、もともと実が出来にくい種であるのか、ムクドリなどが大挙してやってきて残らず食べてしまうのか、失望とともにいろいろ考えさせられた。(家の近くにビワの木があって、例年実が生るが、ある日突然カラスが大挙してやってきて、激しく実を食い散らかしていくことが通例になっている。)









問題の2014年、5月中旬も終盤に差し掛かる頃、春の花はとりあえず撮り終え一段落したので、懸案になっていたギシギシ類の分類に取り掛かることにし、界隈の一帯でギシギシの花のズームを撮りまくって、どんな花が存在しているのかをまず精査するつもりで、5月18日に取り敢えずこの方向から開始した。

ヒメカジイチゴの前を通る際、念のためと思ってダメモトで調べに入った。ところが、そこで上に載せた1枚目の写真の実を見つけた。
ヘタが被っていて一寸見難かったが、確かな実を見付けて嬉しくなり、まだ他にもあるのではないかと、踏み込んで探したところ、期待通りもっと良い2枚目に載せた次の実を見付けた。

左の3枚目は2枚目の実と同じもので、方向を変え接近して撮ったものである。その後も探し続け、4枚目5枚目のような実を次々に見つけ、結局6個の実を探し当てたが、2度目に見付けたものが最も出来がいいと思われ、帰りしなにもう一度これを撮ったものを6枚目に載せている。思い入れが強かっただけに、実を撮れたことはこの日の望外の喜びで、ついつい同じ実を3枚も載せてしまった。

なぜ前回これが見付けられなかったのかは不明だが、花のように多くの実が簡単に見られるというような事前の想像があって、普通に見られるようには見当たらないという事態に当面してがっかりし、諦めが早かったのかも知れない。



キイチゴ類では実はこのような核果の集合果となるものが多い。
この一連の写真は全て2014年5月18日の撮影。


この下2枚の花は2015月4月25日の撮影。


ここから下の4枚は2015年5月17日で、前年と同じ場所での撮影。
ヒメカジイチゴはカジイチゴとニガイチゴの交雑種という説もあるようで、実は少ないと書かれているものを見かけるが、実際ここでも例年花は多いものの、実は極めて少なく、必死に探して2,3個見付けられれば御の字という有様だ。




 


 

クサイチゴは丈が低くいかにも草本のように見えるが、バラ科の落葉低木で木本である。日本の在来種。花は大きいがその割に実は小さい。
これは京急の六郷橋梁と六郷橋の間、河川敷にゴルフの打ちっ放しがある後ろの低水路側に細々と命脈を保っている。ここ以外では見たことはない。
写真は、花は上の3枚が2013年4月10日。この年は上のヒメカジイチゴ同様、クサイチゴについても実のことはすっかり忘れていて撮っていない。従ってクサイチゴの実を撮ることも2014年の課題とした。



左の2枚は2014年4月中旬の撮影。


左の実の写真は上の2枚が5月中旬、その下の1枚は5月下旬の撮影。陽当たりのよい小道が開けた場所にあった方では既に実は無く、路地奥の藪の際という条件の悪い場所のものに、辛うじて実が残っていた。残されていた実の数は少なく、下の1枚も上の2枚のどれかと同じ実ではないかと思う。植物園など条件の良い場所で栽培されたものでは、クサイチゴの果実はもっと綺麗で形の良いものができるようだが、ここではこれが精一杯という印象を受けた。



これは翌年に、上の写真を撮った近くの、ヤブヘビイチゴが点在するような環境の中にあったものを撮った。撮影は2015年5月17日。クサイチゴは少なかったが、この写真の実の他にも集合果が出来損なったような実が一点あった。おそらくそれもクサイチゴだったろうと思う。

 


 

ここは多摩川緑地を取り巻くように、JR六郷橋梁から水路際の土手下に続く散策路で、位置は多摩川緑地のほゞ中央辺り。苗代苺は散策路に面した、土手の法面にあった。
これを発見したのは2015年5月初旬。花は枯れ色が多く混じっていて、全体にそれほど目立つような感じではない。ただ蕾の花弁が鮮やかで濃いピンク色をしているため、何だろうと思って近づいてみると、結構多く花があることに気が付くという按排。

これもクサイチゴと同様に、一見したところ地面に貼りついた蔓性の草に見えるが、分類では落葉低木とされていて木本に入れざるを得ない。


5片の平開した萼は直径2センチ程度あるが、花弁は直立していて径は1センチも無く、先を畳んで閉じているものが多い。花弁は平開することはなく、先の折り畳んでいる包みを僅かに開く程度に咲く。
開いた花弁は直に脱色して枯れ色となり、皺んで脱落していく。



包みを開いた花の本体は、メシベとオシベがびっしり束になっている。すぐに花は茶褐色となり、この時点がどのような過程に当たるのか判断できない。一見したところ枯れ色だが、花弁を解いた花は殆どすべてこのような状態になっているので、これが終わった花と即断はできない。

未だ鮮やかなピンク色の片鱗を見せていない蕾と、開いた後すでに殆ど脱色し、花弁が縮れて脱落しかかっている花が並んでいる。このように様々な過程の花が混在し、そのため全体が地味な感じになっている。

これは”咲いた”花を真上から見たところ。これ以上開く時は、もう花弁は役割を終え脱落していく過程を辿ることになる。

これは珍しく、閉じた先を僅かに開いた花弁が、その後外れていく過程の花で、全体がレンガ色で脱色の途上にある。何かはっきりは分からないものの、昆虫らしきものが写り込んでいる。

これは2015年5月17日。この群集があるのは家から近く、比較的頻繁に見ていたので、その過程を逐一記録していた。

これは上から1週間後の5月25日で、この時期にはもうピンクの花は無くなって、花はほゞすべてがこのような状態にあった。花弁の痕跡がしぶとく残っているが、おそらく萼が折り畳まれる前に脱落する。

この2枚は6月5日。ほとんどの花は咲き終えて花弁を落とし、萼が多くのメシベを包み込んで折り畳まれ、子房の熟成期間に入る。


ここから下の4枚は6月13日に撮った。萼が開き実が姿を見せ始めたばかりの頃の写真で、開いたところを選んで撮っているが、閉じているものも未だ多く残っていた時期である。

受粉に成功し核果お形成し得たものが花托の周りに集合して果実を成しているので、核果の数はマチマチで、多いものでは10個以上を集合しているものもある一方、3個とか4個しか付いていないものも見られる。



ここから下の6枚は6月23日の撮影。最盛期といった感じの時期で、実が鮮やかに見えた時期はこの後もしばらく続いていたが、写真の方はこの日でもう撮り切ったという実感があって、撮影はこの日を最後にした。
キイチゴ類は皆似たような果実を作るが、実の色はこのナワシロイチゴが一番鮮やかだったように思う。ヒメカジイチゴは藪に分け入るような感じでやっと数個を見付ける有様だったし、クサイチゴもどこにあるか分からないような環境で、やはり数個を見付けるのがやっとだった。
それに比べれば、このナワシロイチゴは散策路に面した土手の法面に剥き出しで群集を形成し、花数は優に百以上はあったと思うし、その全てが実となって顕れた。好んで食べる人もいるというほど美味らしいが、片っ端から何かに食べられてしまうという感じではなかった。


こうして写真をズームで撮れば如何にも派手な感じがするが、実際には花も実も小さいもので、群集の全体は地味な感じでのものである。知っていて寄って見るというのでなければ、普通に通り掛かりの人がオッというほど目立つ雰囲気のものでは無い。




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