<参考26> 河川敷の春から初夏にかけての草木と花
【バラ科】 ピラカンサ属 : タチバナモドキ・トキワサンザシ・カザンデマリ (ヒマラヤカンデマリ)
次の4枚目(左の写真)は4月下旬で、六郷橋の川下側の下手(本流縁)の荒地で撮った。ここには大雑把に10本近くが集中して存在する。丈は大小あって、1メートル程度のものから2メートルを超えるような株もある。いつ頃からあるのか知らないが、起源はともかく、自生的に増えてもいるのだろう。後にこちらは柿色の実を付けるタチバナモドキらしいと分かった。背後はトウネズミモチなどの大木が藪を作っているその前の草地にある。
左の写真は多摩川緑地の上手、川裏に安養寺がある辺りの植生護岸で、2本あるトキワサンザシと思われる木の実を撮った。時期は上が2013年7月3日、下は7月9日である。
左の写真は六郷橋下手(東六郷3丁目地先)のタチバナモドキの方で、これと上の2枚は7月18日の撮影。
ここから下の5枚はこの日と、翌12月1日の朝方に撮ったものが混在しているが、時期的に大きく変わる訳ではなく、翌12月1日の朝出陣して、ベッタリ型のピラカンサを撮った際、ついでにタチバナモドキも撮ったので、朝日に輝くその写真も掲載した。
(六郷のJR橋梁から多摩川大橋までの間は、多摩川緑地の範囲は西六郷4、区民広場は西六郷3、安養寺から流路が急カーブする地点を越えるまでが西六郷2、京急の雑色駅から真直ぐ川に出てくる信号の位置からトミンタワーの手前までが西六郷1、トミンタワーから多摩川大橋までは多摩川2、橋を潜ると矢口3の地先になる。)
ここのピラカンサの実は既に11月26日に撮っていて、11月30日にも確認はしていたが、どうしてこんな日陰のような場所に生育できるのか不審に思った。ただ両日とも夕方に近い西日の時点だったので、何とも判断できなかった。そこで翌12月1日に、朝方の陽当たりがどんなものかを確認するために、朝のうちにこの木を見に行った。
写真は上から2枚は11月26日、3枚目は11月30日の撮影で、その下の3枚は12月1日の朝方に撮ったものである。
外の草地に林立しているタチバナモドキの方は良く日が当たるし、西六郷のトキワサンザシの方も日陰という環境ではない。(因みに多摩川大橋上手のゲートボール場の角に植えられているピラカンサも、周りは空いており日当たりは十分にある。)
ここまでで2013年に撮り損ねていた、花の咲き始めから実になるまでの過程を2014年に撮り終えたことになる。ここから後は前年に詳しく撮っているので、ここから初めの(前年の)写真に戻れば後の経過が引き継がれていくことになる。
ピラカンサの名前で呼ばれる3種は、和名ではトキワサンザシ(常磐山査子:P.coccinea)、タチバナモドキ(橘擬:P.angustifolia)、カザンデマリ(崋山手毬:P.crenulata)と呼ばれる3種である。(カザンデマリは、カンデマリと書かれる場合もあり、又ヒマラヤやインドを冠して呼ばれることもあって、書き物により様々で和名としての一貫性は無い。)
原種としては、トキワサンザシは欧州南部から西アジア方面が原産地で赤い実を付け、タチバナモドキは中国西南部が原産地で柿色の実を付けるとされる。これだけであればそれほどややこしくはないが、問題は更にもう一種あるカザンデマリの存在だ。別称にあるようにヒマラヤやインド地方が原産地と思われる。観賞用としてはこれが最も優れると書かれているものが多い。トキワサンザシに似ているような写真が多いようだが、別種とされている以上実体は異なる筈で、どこが違うのかその全容はイマイチ明確にならない。
園芸種ながら野化したことで、交雑種が出来ている可能性もあって、河川敷や護岸であちこち見られるピラカンサを厳密に3種に区別することは極めて難しい。元々カザンデマリは最も赤いとする書き物がある一方、カザンデマリにも橙紅色の実を付けるものがあるとする書き物もあって、原種自身の特徴がはっきり定まらない上に、交雑種が出来ているとなれば一層難解なことになる。実の大きさや葉幅についての比較記載に挑戦する試みも見られるが、これも内容はそれほど明瞭なものはなく、ピラカンサの種を決定する決め手にはなりにくいのが実態だ。
5〜6月に小さな白い5弁花を密集させて咲くことも共通していて、結局ピラカンサという以上に記載することは危険だが、ここは素人の図鑑でもあり気にしないであえて名前を付けていく。(この木のことは2013年の調査で初めて知った程度なので、実態調査は不十分であり、2014年に精密を期したい。)
(下の方の実の写真で、都民タワー下手の湾曲部を背景に撮っているものから続く6枚は全て西六郷側の木で撮ったものである。)
色は異なるが実の付き方は双方良く似ていて、あちこち塊り状に実を凝集させる。西六郷の赤い実は12月に入る頃には川縁のものは殆ど飛んでしまっていたり、上半分がすっかり飛んで無くなっていたりしたが、土手上のものはかなり残っていた。一方六郷橋近傍のタチバナモドキと思われる方は、同じ頃には未だどの木もほゞそっくり実を残していて、鳥に食べられることもなかったようだ。
一方川上側ではノイバラを重点的に追い、序にランタナ、アメリカオニアザミ、アレチハナガサなどその近くにあるものを撮っていたが、その気になって護岸を下まで降りていれば花を撮れた時期に、テリハノイバラだけを撮って、記憶の薄かったトキワサンザシの方は花を確認しに行かなかった。
そんなことで実が生る時期になって、花を撮りそこなっていたことが悔やまれた訳だが、次の年の課題は外にも色々あるので、その一つで仕方ないと思ったものだが、図鑑でピラカンサの花を調べていると、どこかで見た記憶が蘇ってきて、写真のストックを見直してみたところ、何やら似た花の写真があることが分った。
偶然そうとは知らずに撮った写真だが、葉は明らかにピラカンサのものだし、花もズームで見ればこの白い5弁花はピラカンサの花と思われる。
花のことを気にしだしたのはもう初冬になった頃で、写真を見つけてから12月初めにこの花を撮った小木を確認しに行った。葉は明らかにピラカンサで赤い実も僅かに残っていて、径は8mm程度と大きかった。ピラカンサは常緑樹だが、この時期に先端に若い枝を伸ばしていたのは印象的だった。
一つ問題になるのはその花の付き方である。実を見た限りでは、西六郷の3株も六郷橋近くの数株も共に凝集した塊り状のものを多くの場所に付けているが、ゲートボール場の脇の木の花は一面にべったりで、塊り状ではなかった。花から実になる段階でそうなるのか、この木の実はべったりだったのかその確認は出来ていない。
ネット上の写真には塊り状でない実の付き方をしたケースも見られるだけに注目だ。ここでもやはり問題になるのはカザンデマリの存在だ。ゲートボール場の脇の木の小木は明らかに大田区が植えたものと想像され、そうなると観賞用にはカザンデマリが最も多く用いられるという記載がひっかかる。
こういうのがカザンデマリなのか、それともこうしたべったりのタイプは、種はトキワサンザシでも改良品種としてそのように作られたものなのか。
火棘の果実抽出物に美白作用(シミの原因となるメラニン色素の生成抑制効果)を確認したとする「サントリー健康科学研究所」のHPには、「火棘の果実は別名を「赤陽子(せきようし)」という高原に自生する生薬のひとつで、中国の古い書物には消化不良や産後の肥立ちなどに役立てられていたと記されています」という記載もある。
実はこの時期には、この辺りのタチバナモドキは六郷橋の上手側にもあることが分かっていた。下手の草地にあるように整然とはしていないので、これまで気付かなかったが、ヒメカジイチゴの裏側の藪の中に何本かある。花期や果実の様子は下手のものとは違わないが、元々枝が奔放に出て伸びる傾向があるところだが、藪の深い中にあるとあって、一層枝が不規則に出て伸びている感じがするものである。
この日にタチバナモドキの一群の裏側(トウネズミモチ側)でイタチハギの蔭に広がっているベッタリ型のピラカンサの赤い実と、西六郷の方にある塊になるトキワサンザシの赤い実を、比較の意味で同時に撮っている。
大木の裏にあって、いかにも陽当たりが悪いように感じられる場所だが、昨日今日植えられたというものではなさそうなので、必要最小限の陽当たりはあるのだろう。
結論的には、推測通り朝方の陽当たりもそれほど良いものでは無かった。部分的には陽が当たるが、当たる場所は動いていくし、陽が上っていってしまうと、全体が次第に殆ど陽が当たらない状態になっていく。
どうしてこのイタチハギやトウネズミモチに囲まれて日当たりの悪いこんな場所で生き続けているのかという謎は解けなかった
花の動きが見られたのは、西六郷の護岸水辺にある下手側の一本が一番早かった。4月19日の調査の時点では、相当膨らんだ蕾が多く見られ、一方上手側の一本は未だ花の気配はなかったが、その後、程なくして上手の一本も同じような蕾を持った。この時の写真を左に4枚掲載しているが、見ての通り蕾にはうっすら赤っぽい色が滲んでいた。
そこで六郷橋下のピラカンサ類はどうだろうかと見に行った。タチバナモドキの方は何回か確認して、花の気配がずっと遅れていいることは把握していたが、森蔭のピラカンサは未だ見ていなかった。
左の写真は5枚が5月11日の西六郷のピラカンサの花で、同じ日に撮った六郷橋下のタチバナモドキでない方の森蔭のピラカンサの花をその下に載せた。4枚は同じ日で未だ半分以上が蕾の状態だったが、開花しているものも認められた。5枚目はそれから1週間後で、花は実から推測していた通りベッタ木を覆うような付き方になっていた。
花はほゞ予想通りで、西六郷のピラカンサと概ね似ている。だがここを見ていて、ハテと気が付いたことがあった。蕾が皆真っ白なのだ。確か西六郷のピラカンサの蕾は赤味を帯びた色をしていた。これは気になっていたここの木と西六郷の木の違いを示す特徴の違いを示す一つにならないだろうか。そう思うと確かめずにはいられず、翌日西六郷のピラカンサを見に行った。
ところがどうだろう、西六郷の木が未だ持っていた蕾は、上の写真にあるように皆真っ白だったのだ。どういうことかは理解できない。然し現に蕾はどこも白色であることに違いはなく、何の区別にもならなかった。
あの咲き始めの蕾の色は何だったのだろうか。落胆と同時にまさに狐につままれたような気分だった。
左の写真の上の2枚は5月11日の撮影で、未だ上の写真では見えないほどの大きさだが、近く寄ってズームしたものが2枚目の写真で、この時期やっとこの程度の大きさになったところで、次の3枚目がその一週間後の写真で蕾はかなり膨らんでいる。この時期はトキワサンザシの方はもう満開で、先行して咲いていた木はもう下火になった時期になる。
その下の7枚は6月1日で、タチバナモドキの花は5月下旬頃から咲き始めていて、この7枚の花の写真を撮った時点では既に満開に近かった。この時、トキワサンザシの方は既に花を終え、花の跡が赤っぽい実の前身に代わっていた。双方の花期は1か月近く離れていることになり、仮に交雑の可能性があるほどDNAが近かったとしても、環境的に双方は交雑しない状況にあることがわかる。
トキワサンザシの方は結構長めの花枝があって、密集した花は全体的に付く感じで、特に六郷橋下の株は、上に載せたようにその密集度が際立っていて、木が花で覆われたような感じになっていく。それは、多摩川大橋下手のゲートボール場の角に植えられた栽培種と思われる一本とよく似ていて、これがカザンデマリなのではないかという当て推量は尚残る。