<参考26>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花

     【ケシ科】  クサノオウ属 : クサノオウ

 

クサノオウは京急の鉄橋下から六郷橋の下に抜ける小道の京急側に数箇所出ている。以前は川岸沿いに散策路があったのだが、河川敷は堤防側にJRと京急の間にはバイオリン公園があり、京急から六郷橋に掛けてはゴルフの打ちっぱなしがあって、人通りははもっぱら堤防側を通るので、奥になる本流側を通行する人は殆ど居ない。ゴルフ打ちっ放しの奥は荒れ地になっているが、古くからHRが入植していて、ほんの稀に国交省の委託で地形を測量しているとかいう人に出会うくらいで、HL以外の人に出会うことは滅多にない。
そんな訳で、以前は京急から六郷橋へは本流の岸に沿う散策路があったのだが、いつしか草薮に覆われて通行不能になりやがて通路は消失した。今では少し本流から離れた場所で、HLがいるところが入り口のようになっていて、ここから入ってしばらく行くと、ゴルフ裏のHL部落の方へ行く道と、昔の本流沿いの道で六郷橋下に出る道の分岐点に出る。京急の鉄橋下を入って、この分岐点にでるまでの間に、数カ所クサノオウが少しまとまって咲いている場所がある。

写真左の1番上は2013年4月9日、2番目3番目は同年4月25日の撮影。

ケシ科の野草は珍しく、クサノオウは多年草ではないが、種子が落ちてすぐ発芽し、ロゼットで越冬し春には黄色い4弁花の花を咲かせる。ケシを連想させるような花ではなく、初めて出会う時には、チョット見ではどちらかと言えばキク科の花ではないかと思ってしまうような雰囲気の花である。(日本には似た花を咲かせるヤマブキソウというのがあるようだが、ヤマブキソウは別に属を立て、クサノオウは一属一種だという説もある。)
クサノオウの花に特徴的なことに、子房が細長く棒状に上に伸び、そのまま果実の莢(さや)になって中に種子を蓄えることで、花の段階でも中心のメシベが太い棒状になって伸びている姿が確認できる。種子にはエライソームと呼ばれる栄養分が付着していて、蟻に巣まで持ち帰ってもらうことで、捨てられた種子が生息圏を広げていくような仕組みになっている。

クサノオウの本体には多種のアルカロイドが含まれ極めて有毒である。(界隈の草本の中ではキツネノボタンを遙かに凌駕し毒性は一番強いと言われる。)
一方ケリドニン、プロトピン等この草に含まれるアルカロイドを利用した薬草としても古くから知られ(漢方では「白屈菜:はっくさい」と言う)、乾燥させた形で主として皮膚疾患を対象に使用したようだが、塗り用だけではなく飲用にも用いられたらしい。
欧米でもモルヒネの代用として癌などの痛み止めに使用された経歴がある他、現在でも「グレーターセランディン」と称する飲用の民間薬エキス剤が販売されているとの記載も目にする。様々な薬効が期待されて使われているようだが、毒性が強いため日本では現在は使用されていないとのこと。
茎は中空で、茎を折ったり葉を傷つけたりすると黄色の汁が出る。花を摘んだりしてうっかりこの汁に触らないよう心掛けるべきであるが、何せ毒性が強いとされているので草自体に触らないようにこの草を覚えておく方が無難である。

ここから下の5枚は2015年4月25日の撮影。
クサノオウは1年生の草本だが、この地の2か所にあるクサノオクの生息状況は安定していて、ここ数年4月には決まって黄色い花を付け、株数の規模は僅かながら拡大する傾向にある。





 


 

     【ケシ科】  ケシ属 : ナガミヒナゲシ・アイスランドポピー (参考)・ヒナゲシ (参考)

 

ナガミヒナゲシはかなり野生化していて、路傍や道沿いの花壇などで良く見るが、植えているのか自然に生えてきているのか判然としない。河川敷の場合には工事によって持ち込まれた土に含まれているケースが多く、あちこちにパラパラ見るような結果になっている。
花が散った後に残る果実を芥子坊主(けしぼうず)というが、ひとつの芥子坊主の中には小さな種子が1500粒ほど含まれていると言われ、一株が散らす種子の数は数万を超える数に達する。ナガミヒナゲシはアレロパシー性(他の生物の生育に対する阻害活性)が強いとされるが、河川敷では刈られるせいか群落を形成しているような状態は見たことがない。


ここから下の3枚は2014年4月下旬に、多摩川緑地管理事務所前の坂路の法面で撮った。工事後の仕上げ用に覆土に含まれていた種子が発芽したもので、3枚目は極めて偶然に花弁の中を覗くことが出来たもので、「雌ずい1個、花柱を欠き、円筒形の子房の上の円盤状のおおいの上に柱頭が放射状にのびる」(国立環境研究所 侵入生物データベース)という状態が見えているのだろうか。
ナガミヒナゲシは通常花弁に覆われたような花の状態なので、あまり綺麗な花の写真ということにはまらまいが、中を見せている格好で珍しい写真ではないだろうかと思って撮った。



 


ウィキペディアには、「アイスランドポピーの和名はシベリアヒナゲシというが、現在では和名のシベリアヒナゲシは全く用いられなくなり、英名のアイスランドポピーで呼ばれている。本来は短命な宿根草だが、高温多湿に非常に弱いため、秋まき一年草として扱われている」と書かれている。 また分布については、「1759年に北極探検隊に加わっていた植物学者によってシベリアで発見されたためこの名がある。野生下の原種はシベリアから極東に分布しており、シノニムとされた別種を含めると北アメリカの亜寒帯にも産する。また品種改良された園芸種が世界中で栽培されている。 英名の Iceland は発見されたシベリアの気候等に由来しており、アイスランド共和国とは関係なく、同国の国花もチョウノスケソウであり本種ではない」とのことである。

左の写真は多摩川緑地の東端に大田区が設けている花壇に植えられたものを撮った。2003年3月下旬で、この年にはその後ヒナゲシなども植えられたが、2003年以来この歌壇にケシ類が植えられているのを見たことはない。アイスランドポピーではオレンジ色が綺麗で多く使われるが、野生種は黄色と白色だけとのことである。


ヒナゲシ別名はグビジンソウ(虞美人草)として有名。ヨーロッパ原産のケシ科の一年草。虞美人草の虞は三国志で知られる武将・項羽の愛人の名前からきている。

ヨーロッパ原産のケシ科の一年草。ケシ類では蕾は長丸い球体で、蕾のうちはが皆下を向き、全体が毛だらけという独特な印象がある。咲く時になると上を向いて花弁を開く。
上の3枚は2003年5月で、アイスランドポピーが植えられた後にヒナゲシが植えられた。この年のヒナゲシは多彩で綺麗だったので印象に残っている。
下の2枚は2005年4月で、JR側の多摩川緑地の端に作られたこの花壇に、ヒナゲシが植えられたのはこの年が最後になった。その後花壇自身は幾らか縮小され、植えられるものも平凡なものな変わった。





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