<参考26>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花


     【カキノキ科】  カキノキ属 : カキノキ

 
多摩川緑地の水路側の散策路を挟んで荒れ地側と河川敷の側にそれぞれ1本ずつカキノキがある。この木の由来は知らない。確かここに柿が生っていることを知ったのは2013年の秋だったと思う。左の写真は荒れ地側のもので結構大きい。荒れ地側はともかく、河川敷の側にもあるのは不思議だ。河川敷は大田区が占有していて、芝を刈って土を入れるなどグランドを整備しているほか、独自に多様な灌木を植えたりもしている。例え縁の場所とはいっても、誰かが勝手にカキノキを植えたりすれば、直ちに排除されると思うし、そうかと言って大田区がカキノキを植えるとは考えにくい。謎のカキノキだが状態は悪くない。近くに桃もあるが、こちらの方は結構やられていて状態は良くないので、誰かが面倒を見ているのか、それともカキノキは元々丈夫なのか。

バラ科の果物は、桃、梅、林檎、梨などすべてがそのままで植物種をも示す。然し柿だけはカキという植物種は無く、カキノキということになっている。柿の木という意味だろうが、バラ科の果物の場合はいちいちモモノキなどと言わず、モモで植種名になっている。柿だけ何故扱いが違うのだろうか。

カキノキはカキノキ科の落葉樹で東アジアの固有種だが、現在では世界中で果樹として栽培されている。ただし生産量は中国が圧倒的に多く、韓国、日本などを加えたアジアで92%が生産され、南米ではブラジルのみで6%、ヨーロッパではイタリアのみで2%などと偏りがあり、他にはイスラエル、オセアニア、メキシコなどで僅かに生産されている。寒冷地には適さないので、日本でも東北、北海道では殆ど栽培されていない。和歌山、奈良、福岡などで栽培が多い。
カキノキ科は大半がカキノキ属で、数百種あるようだが、大部分は常緑種で落葉樹のカキノキは例外的な存在という。原産地は中国で日本には弥生時代以降、奈良時代の頃に伝わったと考えられている。ただヨーロッパには18世紀に、アメリカには19世紀に日本から伝わったため、カキノキの学名はカキとなっている。D.kaki
カキノキ類は果樹として利用されるほか、木が堅いので材木としても有用である。カキノキ属の常緑樹として、南アジアなどに分布する熱帯性の高木コクタン(黒檀)が、家具や楽器に利用され良く知られている。

松尾芭蕉が伊賀上野で読んだという「里古りて柿の木持たぬ家もなし」という俳句にあるように、かつて地方の畑の隅には柿の木が植えられているというのが普通の景色だった。甘柿を食用にしただけではなく、渋柿の渋の主成分はタンニンであったから防腐作用があり、プラスチック製品が普及する以前には、この搾り汁を紙や網など色々な物に塗って、付加価値を高めた製品としていた。

柿は本来渋柿だったらしいが、日本で改良され、熟すと渋が抜けるような甘柿が開発された。(タンニンが不溶性になって固まりゴマのようになる) 全てが甘くなる完全甘柿と呼ばれる品種としては富有柿、次郎柿が有名。歴史的に初めて生まれた甘柿は禅寺丸という品種だが、現在では不完全甘柿に位置づけられている。
不完全甘柿というのは、雄花の多少により、果実の種子に多少が生じ、種が多いと甘くなるなど、年により又枝に寄りなど、必ずしもすべてが甘柿とならない木のことで、富有や次郎のような特殊な品種でない場合、普通はこのような木になるケースが多いらしい。
完全渋柿は平核無(ひらたねなし)や刀根柿が代表格。渋柿は干し柿にされると渋味が抜け、甘柿以上に糖度が高くなる。

カキノキは雌雄同株。上からここまで6枚の写真は2015年5月9日に撮った。あちこちの場所を撮ったが、全て萼の大きい雌花のように見えた。雌花にはかつて両性花であったかのように、メシベの脇にオシベの痕跡があるという。雄花は小さ目で雌花のように一個一個という感じではなく、まとまって付くという。

ここからの3枚は5月14日の撮影。上の一群の写真を撮ってから5日しか経っていないが、既に花の色は黄色から赤味掛かったレンガ色に変わってきていて、花の期間は短い。

柿は単為結果あるいは単位結実といって、受精しなくても果実を形成する性質を持っているので、仮に雄花がなくても(種なしの)果実を付けることは珍しくない。
一方、果物類は一般に生理落下といって、早期、後期の2度、(天候異変や病害虫の被害によることが無くても)自然に落下するものがあり、膨らんだ子房が全て最後まで辿り着くことはない。

甘柿では殆ど雄花が無いので、近くに雄花の多い禅寺丸を植えるとか、人工的に受粉させるなどして、安定的な果実の形成を図ることが行われる。

この1枚は5月17日の撮影。花が釣鐘状に見え、雄花だったのかと思ってしまうが、奥に子房が垣間見えていて、これは雌花であったことが分かる。

この1枚は5月20日の撮影。この時点では子房が膨らんだ果実が見えてきていて、花はもうすっかり凋んでしまっている。

ここから下3枚の写真は6月23日の撮影で、果実が十分見えるようになった時期であるが、果実の先に花の痕跡を残しているものと、全くそのようなものが認められないものが同じように混在している。痕跡の無いものが、花の遺骸が脱落したものなのか、単為結果によるものなのかの判断は難しい。



左の1枚は2015年9月28日の撮影。場所は同じところで、柿の実が色付いてきたので一回撮っておいた。

左の1枚は2015年10月3日の撮影、この後このカキノキのことは全く忘れてしまった。
11月初めに思い出したように見に行ったが、カキノキは落葉樹であり、その時点ではもう葉も実も跡形も無かった。(勿論一般には、この時期でも熟れた実を一杯に付けたカキノキは自然に見られる。)

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