<参考26>  汽水域で春から夏にかけて見られる草木の花


     【イグサ科】  イグサ属 : イグサ・ホソイ・クサイ

 
多摩川大橋の左岸上手(ヤマハボートの拠点がある少し下手)で、岸辺の散策路の脇(低水路側)に、かなり以前からイグサが一株ある。この辺りは低水護岸が施されているので、高水敷の上がそれほど湿気た場所というわけではなく、湿生植物という感覚のあるイグサが、何でここに生え続けているのかは分からない。
散策路の堤防側には、ここから上手に向って、公園風の憩いの広場が作られていて、その上手にはゲートボール場があったりするが、散策路の低水路側になるこちらは、人が何かを持ってきて植えるというような雰囲気の場所ではなく、荒れ地の端で雑草の中に混じってあるもので、不思議の感を禁じ得ない。

左の写真は2014年6月27日の撮影

きちんとウォッチしていた訳では無いが、2015年にクサイの花を撮ったのを機会に、この特集にホソイ共々でイグサ科を載せることにしたので、本家のイグサも載せなければ恰好が付かないということになって、2015年には幾らか真剣に撮って回った。
ただ古くからあるこの一株については、少なくとも2年間の写真を載せることで、あまり変わったところはないということを示すこともあろうかと思って、上から3枚は2014年6月に撮った写真を載せた。
イグサの特徴は、葉の無い針状の長い茎が放射状に展開する姿で、小さい写真で全体を撮ると不明瞭なものにならざるを得ず、近づくと全体がどうなっているのか分からないという難しさがある。場所が場所だけに、色々な物が上に投げ捨てられて、株がつぶれかかっているような時期もあり、そんな状態から邪魔物を排除して株を立ち直らせたりと、面倒を見てきたことはあるが、写真としては、後から前後の写真を見る場合の位置を推定するための通行証のようなことで、通りすがりに一寸撮って挟んでおくという程度のものだったので、あまり突っ込んだ写真は撮っていない。

左の写真は2014年6月27日の撮影で、一番目に載せた写真を撮った時に同時に撮ったズームである。

左の写真は2014年4月17日の撮影で、未だ花の気配は無く、今年は頑張って花を撮るぞという時期の様子。

ここからの3枚は2015年5月30日に撮った。この年はイグサの花をキャッチする積りで、早い時期からウォッチしていた積りだったが、花のようなものが出始めてからも、遂に”咲いた”花のようなものは捉えられず、結局花後の痩果みたいなものを撮るのがやっとだった。

ホソイも長年見てきているが、同じように”咲いた”花を見たことは無く、こんなものなのかと思い始めた矢先に、ネット上で”クサイの花”を見付け、初めて花弁やメシベなどを備えた普通の花が咲くことを知った。
恐らく早い時間帯にのみ僅かなものが開花し、午後から出向いたのではもう見れないという手合ぼ花ではないかと思った。ただイグサやホソイに付いてはネット上でも花をはっきり確認はできなかったので、取り敢えずクサイに集中して花をゲットしようということにした。

平日は午前中からは出難い事情があったので、天候のことも含め必ずしも余裕は無く、しかもクサイの花をゲットするのも容易では無かったため、結局クサイで力尽きてしまい、イグサについては一年先送りにせざるを得ず、2016年への宿題ということになった。

2015年は前年までの高水敷の一株ろう別に、新たに西六郷地先の低水護岸の最下段に、イグサが点々と3,4株生えているのを発見した。
これまでは多摩川大橋に近い高水敷の荒地にあるものだけが孤高の存在という感じだったが、ここに幾つか出てきたことで、イグサの観察は新たな局面を迎えるようになった。今後の存続の可否は不明ながら、藪に覆われてしまう中段ではなく、又多摩川大橋に寄った上手側では、この最下段はヨシに浸食されてしまっている場所も少なくないが、多摩川緑地に近づいてくるこの辺りではヨシは未だ見られない。

左の1枚は初めて発見した2015年4月26日に撮ったものの中の1枚である。

ここから下の5枚は、西六郷の護岸にあるイグサのうち、最も下手にある1株について、花を撮り始めた6月2日に撮ったものである。





これは上と同じ場所で6月13日に撮った。10日余りしか経っていないが、既に花のイメージではなく、実になっているように見える。

 


 

左の写真は京急鉄橋下の堤防に面した一角で、ミコシガヤの群落の中に同居しているものを撮った。
バイオリン公園の反対側(JR橋梁側)の雑草帯にも、ミゾコウジュの傍に少し見られた。
畳表に使用する目的で、水田で栽培される「イグサ」は、野生種の「イ」(藺)を幾らか改良したものらしい。ホソイは苞が花茎の延長線上に長く伸び、花が茎の途中に咲いているように見えるが、この姿は本家のイ(藺)に似ているとされる。



左とその下の2枚は、2008年7月4日の撮影。



緑色の若い果実を抱いたような左の写真2枚は2015年5月27日の撮影。
京急は六郷鉄橋の橋脚の耐震補強工事をしてから、鉄橋下をロープ囲いし除草も徹底的に行うようになった。タコノアシも出ては刈られるで衰亡しつつあるが、鉄橋の真下からは少しずれたこの場所も2015年末には完璧に刈られてしまったので、ホソイが翌年以降どうなってしまうのか懸念している。
バイオリン公園を挟んだ反対側になるJR橋梁下も、かつてはホソイなどがかなりあって、ミゾコウジュが来た年もあったほどだが、やはり耐震補強工事後は管理が厳しくなり、ホソイはもうとっくに消えてしまっているので、京急側だけが頼みの綱だが、果たして存続できるか。


 


 

散策路脇などの乾いた場所で多く見かけるのは、ホソイとは似て非なる「クサイ」である。クサイ(草藺)は、いかにも踏付けに強いという雑草風の格好で、苞がホソイのように伸びず、花は平凡に茎の先端に付いて見えるので容易に区別できる。




イグサもホソイも花は何か判然とせず、蕾だか果実だかよく分からない球状のものを抱いた姿しか捉えていない。クサイの場合も同様で、総苞のようなものが球を抱いている姿は良く見るものの、それ以上のものを見たことは無かった。結局イグサ科の花はこんなものなのだろうと思っていた所、2015年に偶々ネット上でクサイの開いた花を見付けて驚愕した。
そうか、やはり花は開くのかと確信し、花らしい花をゲットすべく精力的に動くことにした。花が普通に見られないということは、やはり朝に咲いている可能性がある、ということで、アサガオの写真を撮って以来久々に、午前中に見て回ることにした。

クサイは結構あちこちで見られるが、株数の多い区域ということで、探索場所は大師橋緑地先を選ぶことにした。岸辺の散策路脇にも幾らか密集地があるが、散策路からヨシ群落を抜けて本流岸に出る小道のうちの何か所か、小道伝いにかなりまとまってクサイが続いている。
時期は初夏で、デング熱以来「蚊に刺されないように注意するように」という張り紙が目立つようになっているが、こうした藪の中では蚊を避けていては何も出来ない。せめて蟲除けスプレーでもしてくればよいと分かっていても、つい忘れて出てきてしまう。

2015年6月13日、それほどの早起きは出来ないもので、この日も現地に着いたのはもう9時近くになっていた。ここでも花らしきものは皆、総苞が球を抱いたものばかりで、これが一体何なのかさえ分からない。

小道をかがんで蚊に刺されながら丹念に見ていくうちに、丁度9時頃遂に最初の花を見付けた。それが左の写真である。こうして見ると、抱いている球は蕾ではなく、本当の蕾は細く縦長の形をしていると分かる。総苞片は6枚で、これが開くと花らしい形になる。おそらくモジャモジャした白い毛がブラシのような形をしているのはメシベで、先に小球を付けた細い棒状のものがオシベだろう。双方とも4〜5本程度の数が見られる。


対象が小さいのでズームでピントを合わせるのは容易では無い。じっとしていると蚊に囲まれ集中できない。場所を換えてまた次を探す。そういう状態を繰り返して、この日にゲットできたのは左に載せた4点だった。最後の方は10時に近い頃で、約1時間の格闘だった。
家に戻ってから写真をよく見ると、後半の2枚ではオシベの先の小球は破裂して、総苞片の上に花粉らしきものが散っている状況が分かった。このことから小球は葯で間違いないだろうと想像される。
この後花はどういう過程を踏んでいくのかは分からず仕舞いだったが、この年はこれだけ撮れたことで満足し、撮影環境が厳しいことから、この年の挑戦はこの日一日で終わりにした。

蕾や花を確認できたことで、抱いている球も子房が膨らんだ若い果実と想像されるようになった。クサイは1例であり、クサイが花開く以上、イグサやホソイでも似たようなことが起き、花が開いているに違いない。来シーズンに向け、新たな課題が一つ明瞭になった。


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