<参考26>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花


     【アブラナ科】  キバナハタザオ属 : カキネガラシ

 

カキネガラシはヨーロッパ原産で明治時代に渡来したとされる。
カキネガラシの特徴は何と言ってもその姿形にある。茎を四方八方に伸ばし万歳するように大きな円弧を描くように曲がるものが多いが、グチャグチャに絡み合ったりするものもあり様々だ。いずれにしても見た目に乱れた感じを与えることには違いない。
丈は1メートルに達するような大きなものはなく、平均50〜60センチ程度である。密接して群生するものを見たことが無いので、本当に垣根を形成したようになるのかは分らない。
花はアブラナ科に特有の黄色の4弁花だが、花は極めて小さく径はせいぜい1センチにも満たない程度である。咲く場所は伸びた茎の先端の場合が多い一方、茎が枝分かれするその付け根付近にもあったりとマチマチである。元々黄色は焦点が合わせ難い上、花はミリオーダーの小ささのため、デジカメのマクロでこの花を鮮明に撮るのは至難の技である。

写真は2008年6月初めの頃、多摩川大橋の下手の本流側の荒地で撮ったもの。この当時この辺り(多摩川大橋からヤマハヨットの間)にはカキネガラシが多く見られた。然しその後この辺りでは全く姿を見なくなり、2013年には六郷橋の下手(六郷橋緑地の南六郷地先)辺りにチラホラ見られるようになり、殆どは小さいものだったが、この乱れた感じが何となく懐かしい感じだった。






 


 

     【アブラナ科】  イヌガラシ属 : イヌガラシ・スカシタゴボウ

 













 


 
スカシタゴボウは越年性の1年草と言われるが、実際には環境条件次第では、年に何回も花を咲かせ、あっと言う間に拡範して空地を制圧してしまうほどの繁殖力を持っている。並の1年草とはかなり状態が違う特異な種類だ。

多摩川の汽水域でウラギクが野生絶滅になる頃、5年間ほど六郷のヨシ原の中で、ウラギクを人為的に保護育成したことがある。その地面は大潮の満潮時には数十センチ近く水没する高さで、ヨシとアイアシが丁度競合するような高さだが、既に他の湿性植物種は駆逐されていて、ヨシかアイアシが全域制圧する環境だった。
そうした環境で地表に出てくるヨシやアイアシを刈って、地面をウラギクに開放し、南側周辺のアイアシも伐って日照を確保し、系統保存を目的にウラギクの群生を維持していたのだが、その時ヨシやアイアシ以外で唯一競合してきたのはスカシタゴボウだった。
近くにはセイタカアワダチソウなどもあったが、競合してくるところまではいかなかった。

ウラギクを広げるために裸地を生成すると、真っ先にそこに種子を飛ばし、実生をみるみる内にロゼットに仕立ててくるのがスカシタゴボウだった。
スカシタゴボウは地上の雑草帯の中で勝ち抜くそれほどの力がある訳ではない。しかしスカシタゴボウには、時期に捉われず、空地という隙があればいつでも侵入を試みる能力、つまり殆ど1年中花を付け、種子を飛ばす体勢を取っているという特異な能力がある。
また一時的に冠水するような低地でも十分耐えられるようで、かつて南六郷の中洲が一斉緑化したとき、中洲の表面はまだ満潮時には水没する高さだったにも関わらず、緑化の初年度にはヨシやイセウキヤガラ、ウシオハナツメクサ、ヒメガマなどと共にスカシタゴボウもあったのでその時感じてはいた。(6枚目の写真はその時の中洲での写真。この年中洲は百花繚乱の状態だったが、結局中洲の植生は翌年以降全てヨシに制圧され、ヨシに対抗して存続できたものは無かった。)





ここの写真は殆ど全てヨシ原のウラギク保護活動中にその近辺で撮ったものである。

当時は未だヨシ原の中に東電の送電鉄塔があって、入口側から鉄塔まで東電がヨシやアイアシを定期的に除草して、鉄塔用の巡視路を確保していた。時期によって多少は異なるものの。一定の幅で裸地が続いていた訳で、スカシタゴボウはその巡視路を拠点にしていた。
左の写真はその様子が良く分る写真で2013年に撮ったものである。歩行部の両脇にもやもや見えているのは全てスカシタゴボウである。2枚はアイアシが伸びてくる前後(4月5月)に相当する。この巡視路も大潮の満潮時には水没する高さで、この通路の脇に他の種類の草は全く見られないが、スカシタゴボウは一向にお構いなしで、年中こんな感じで花を咲かせているようだった。


 


 

     【アブラナ科】  オランダガラシ属 : オランダガラシ (クレソン)

 

オランダガラシは欧州原産のアブラナ科の多年草。日本で言えばワサビに似たような生育環境で、抽水植物ないしは湿生植物で、上部が水面上に出ていれば水中でも生育できる。
ワサビが清流でないと育たないのと比べると、幾らか汚れた水でも生育できるとされる点で異なる。ワサビ田が水耕栽培であるため、ワサビは水生植物というイメージがあるが、日陰で温度が高くならないような環境であれば、湿気た土壌で普通に育ち、水中に生えるのはむしろ特殊なケースである。
クレソンも同様に、食用のものは水耕栽培されるようだが、野生環境では必ずしも水域に限定されず、川沿いの岸辺にも繁殖し、繁殖力が強いため要注意外来生物に指定されている。

左の4枚を撮ったのは2015年4月末。場所は多摩川大橋の下手(多摩川2丁目地先)で、非常時船着場から川下に向け、ヤマハボートの桟橋があるまでの間の部分。近年改修された階段状低水護岸の最下段で、満潮時には水没することもある高さになる。
ここのコンクリート上は何故かその他の場所と異なり、打ち上げられたものが留まり続けるため、魚の死骸などが腐敗し、常時悪臭を放っていて近寄りたくない場所である。

この低水護岸は植生護岸になっていて、各段には様々な野草が生えている。最下段近傍には木本もあり、タチヤナギ、テリハノイバラ、オニグルミ、ピラカンサ、アキニレなど結構多くの種類が見られ、最下段にノイバラ、中段より上にはヌルデやフヨウも定着している。
草本は一般の雑草類の他、全体としてアレチハナガサの多さがこの低水護岸一帯に特異的と言える。最下段にはヨシのほか、オオカワジシャ、キショウブ、イグサなども見られ、オランダガラシはオオカワジシャと場所取りの生存競争状態にあると言われるが、この界隈ではオオカワジシャは散見されるものの、オランダガラシの方はこの一カ所でしか認められない。

葉は奇数羽状複葉で、側小葉は3〜4対程度。小葉の形は丸っぽいものや、楕円形でかなり細長い形のものまで色々。
花は円形の集合花序で、外側から中心に向かって順次咲き、タネツケバナより太目の長角果を伸ばす。ここではイヌガラシなどと隣り合っていて、水中花のイメージではない。

左の写真は、2016.3.20に中流になる狛江市の水辺の楽校がある場所で撮った。葉の様子が分かり易いので参考写真として載せた。
ここには上の方で分流された小川が流れていて、キショウブが生えオタマジャクシが多い。清流のイメージに似た環境で、浅い水中にクレソンがあちこちあって、いい雰囲気を醸し出していた。
クレソンは近代の初めに、西洋人用の料理の添え物として導入されたが、排水に混じって流出したものが、上野不忍池に定着したのが野化した初めと言われるように、自然の生育環境は清流に拘らず、或る程度汚れた水域でも生育できる。

ここからの3枚は2016年5月15日の撮影。場所は右岸の大師橋の下手になる殿町3丁目の入口に当たる場所の地先。
この日は多摩川の自然を守る会の月例観察会で、殿町2丁目と3丁目の境界部から海側へ、多摩運河に突き当たるまでの区間を見て歩いた。京急大師線の終点になる小島新田駅から真直ぐ多摩川に向かうと、殿町3丁目公園を過ぎて堤防に上がるようになるが、殿町3丁目公園は殿町2丁目と3丁目の境界部の3丁目側にあり、この下の地下をJR貨物の京葉線が通っている。(JR貨物京葉線は大型のコンテナ船が出入りする大井埠頭が始発で、大井埠頭を出ると直ぐ地下に入り、羽田空港敷地の地下を掠めて多摩川を潜り、殿町3丁目公園の地下を抜けた先で地上に出る。その後は塩浜操駅に向かい、浜川崎に至ってJR鶴見線に合流する。)
東京の地下は地下水が豊富で、地下鉄は大量の出水を捌かなければならない。JR貨物京葉線は3丁目公園が多摩川の堤防に突き当たる場所に排水管を出していて、一定の間隔をおいてここで排水している。そのためこの場所は湿地のようになり、湿生植物が繁茂する。

2016年5月15日の観察会が行われた時期は、大師橋からいすゞ跡地に出来ているスーパー堤防までの一帯が、堤防補強工事明けになった時期に近く、工事された堤防法面や高水敷の平面の植生は一新されていた。
元々この辺りの堤防下は水域の水面との高低差が少なく、ヨシ原との間の区間は常時湿気た場所だったが、工事が行われる前は、シオクグなどが見られる場所だったが、この日は貨物線排水口の近傍はオランダガラシが多く見られ、ほかにもトウオオバコやコウキヤガラなど以前には見られなかったような種類が幾つか見られた。
水域側の接腺は概ねアイアシ群落で、反対の堤防側の高水敷の草地には、オオニワゼキショウ、ケキツネノボタン、カワジシャ、ノジシャなどが見られた。


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