<参考26> 河川敷の春から初夏にかけての草木と花
【ムラサキ科】 キュウリグサ属 : キュウリグサ
キュウリグサはワスレナグサと似た花だが、サイズは一層小さく花の径は数ミリ程度しかない。アジアの各地に分布し日本にも古代に伝来し帰化したと考えられている。遠い昔にはタビラコと呼ばれていたようだが、コオニタビラコ(キク科でニガナに似た黄色い花、春の七草の1ホトケノザのこと)と紛らわしいこともあって、キュウリグサの名前が定着している。名前の由来は葉をもむとキュウリのようなにおいがすることから付けられたという。
この写真は3月下旬に、京急と六郷橋の間にある打ちっ放し場の、京急側の金網フェンスの外側の草地で撮った。そこら辺一面にというくらい多く咲いていた。茎が伏したように地面に這いつくばるような格好で、丈は低くかったが、所によっては茎はどんどん伸びて数十センチにもなるものだという。
良く似た花にハナイバナという種があり、双方の見分け方としては、ハナイバナの副花冠は黄色でなく、白色であること、キュウリバナは茎先に次々と花を付けるが、ハナイバナは葉と葉の間に一つずつ花を付けていくことなどが指摘されている。ここの花にも副花冠が黄色い花の中に、副花冠が白いものが混じっていたが、ハナイバナではなく、終わりに近付いて勢いを失ったキュウリバナの花が、脱色していく過程にあったものではないかと想像される。
花は小さく、肉眼では5弁花であること位しか分からない。花弁は薄い青色で中心に黄色い円形の副花冠がある。(花弁の集合体を花冠と呼び、水仙に見るように、通常の花びらの中にもう一つ花冠のような構造を持つ場合、これを副花冠と呼ぶ。)
この辺から上手に掛けての一帯も、関東大震災の後、砂利採集がピークを迎えた頃に、高水敷まで乱掘りされて岸の線は乱れ、高水敷の水域側は浸蝕を受けてボロボロになった時期がある。その後護岸自身の修復は行われたのだが、用途の無い土地部分は浸蝕を受けたままで放置され、昭和30年代には、バイオリン公園の場所もボコボコで水溜りだらけのひどい状態だったから、数年に一度程度は、台風で増水し泥流におおわれる状態に見舞われ、結果的に凹凸は均される傾向にはあるのだろうが、六郷橋の下手側ほど顕著ではなくても、この辺りも依然として浸蝕当時の名残で荒れた状態が続いているのだろう。
キュウリグサは既にゲットしていたので、主要な狙いはハナイバナにあったが、見たことが無く、単にキュウリグサの副花冠が黄色でなく白色のものというだけで探していたので、やはり見たことが無かったタチイヌノフグリやムシクサに翻弄される有様で、キュウリグサは見てはチェッまたこれかという状態だった。実際キュウリグサは多く、ハナイバナはその十分の一も無かったから、ハナイバナの方をある程度撮りきるまでは、キュウリグサには見向きもしなかった。
然し、ゴルフ打ちっ放しの外で撮った時のキュウリグサは、ミチタネツケバナほか様々な草種に紛れて、その全容は把みづらくよく分かっていなかった。そのことで反省し落ち着いてからは、キュウリグサもよく観察した。
野性環境に揉まれたような汚さが無い花は綺麗だったが、副花冠の中までが分かるような花は殆ど無かった。(デジカメの更新は3年前で、当時は望遠性能を主眼に置いていたので、接写機能は弱く、細かい花を撮るようになって悔やまれるが、転んで潰してしまい、修理し直したばかりなので、今また別のデジカメを買うというまでの気分になれず、何とかこれで撮れる範囲でと苦心しているが、ヤエムグラの花を撮る時点になって、つくづく難しいなァと嘆き、ギシギシの花を撮るに至って機種の選定を誤ったという悔いは極に達した。いずれも花の径は数ミリだが、ギシギシの場合、内部構造が複雑で、細部は極めて難解である。)
【ムラサキ科】 ハナイバナ属 : ハナイバナ
ハナイバナは「葉内花」のことらしいが、確かにキュウリグサの花が、葉を置き去りにして伸びた茎の先に幾つもの花が付くのに対し、ハナイバナの花は葉の中に埋もれるような感じで、一か所の数は精々3個までで孤立して咲いているものが多いなど、違いは幾つか指摘できる。花は副花冠が黄色くないだけ地味な感じで、花弁もやゝすぼみがちな姿が目立つものの、全体的にキュウリグサより気品があるという印象を受ける。
堤防下は堤防敷の除草時に一緒に刈られる範囲で、ここも大型のエゾノギシギシらしき株が出て、花穂を伸ばすのを待っていたが、その前に全体が刈られてしまい、ハナイバナも果実を撮る前に消滅の憂き目を見た。1年草らしいので、来年はおそらくここでは見られないだろう。