<参考26>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花


     【タデ科】  ギシギシ属 : スイバ

 
スイバは北半球の温帯に広く分布するタデ科の多年草。雌雄異株。
ロゼットの根生葉は長楕円形で密集してつくが、春に伸びる茎に付く葉は披針状楕円形で先は尖り基部は茎を抱く。

2015年は珍しく、4月に多摩川緑地から多摩川大橋に向かう堤防法面に、まとまったスイバが数カ所で見られた。雌雄の双方が存在し、この時期には未だ除草が行われないので、花から痩果を形成する過程をじっくり観察出来た。

左の写真、最初の2枚は2015年4月16日に、初めてスイバを見付けた時の写真で、夕方5時近くになっていて既に薄暗かったが、赤い色に引かれて興味を持った。場所は2カ所で、最初はトミンタワー前辺り、次は安養寺の前辺りで、いずれも法尻に近い場所に数株規模で生えていた。


ここからの8枚の写真は、10日後になる2015年4月26日の撮影。
この日まで撮っていたのは(偶然ながら)全て雌株で、赤い花が密集して付き、葉はしっかり茎を抱いていた。





雌花は円錐花序に花が密集して付き、花は紅い糸球のような形の柱頭が3個一組で、6枚の花被片に支えられている。

雌花は受粉すると花被片の内3枚が子房を包み込んで翼となり、痩果が形成される。翼が癒合した形の痩果はギシギシと似ているが、ギシギシの痩果のように、中肋の中央部に瘤状の膨らみが出来ることはない。

赤い花の密集した花序の中に、既に翼状に花被片が広がった痩果が混在している。早い時期に痩果が見られるのは、花枝が飛び出したような先端部に多く、これによってスイバは風媒花であることが想像される。

ここからの7枚は翌々日の2015年4月28日の撮影。場所は同じ辺り一帯の法面だが、スイバの出ている場所は小さな群集も含めて10カ所近くはあったので、撮っている株の区別には対応しきれず、ランダムに撮ったものを順不同で載せている。

 
この日に初めて雄花を撮った。(この頃には未だスイバのことは良く分かっていなかったので、これまで雌花だけを撮っていたのはあくまで偶然で、特に雄花を探そうというようなことはしなかった。)

左の1枚は比較的大きな花序を撮ったものの一部を切り取っている。球状体は蕾で、咲くと6枚の花被片がほゞ水平に開き、葯を展開する。

これまで雌花に緑色のものは無かったが、雄花の場合には、開いても花被片が緑色のまゝという花があり、雄花の色は多様である。
6枚の開いた花被片の中心部に見られるヒトデのようなものは、花粉を飛ばし用済みとなった葯が脱落した後の痕跡で、実際の長さは1ミリに満たない小さなもの。このヒトデ状のものが葯を繋いでいた花糸の残骸とすれば、オシベは極く短い花糸で葯を繋いでだ形のものと想像できる。

左の2枚はこの日に撮った雌花だが、この花では柱頭の糸状体は中心部以外は白く、前に撮ったほゞ赤一色に見えるものとは異なり、褪せたような印象を受ける。
ただ混在する痩果については、見た目は同じような感じで、外縁部は赤く、ピンク色から薄黄色部を経て中心部は薄緑色のグラディエーションになっている。


同じ日ながら、次に見たこの株群はもう全体が痩果になっていて、しかも色が褐色掛かっていることから、幾らか日が経っていると思われるが、何日程度でこのような感じになるのかは分からない。

これは雄花の花枝だが、川下側を向いて撮っていて(ぼやけて写っている)背景から、今いるこの場所が安養寺の前辺りであることが分かる。水路が左端で食い込んだように見える場所は、近世まで小向の渡しがあった辺りで、ここから下手に多摩川緑地が張り出し、水路はその周りを廻るように急激に左旋回していく。(見えている河川敷の場所は多摩川緑地の上手側の端になる区民広場になる。その先にサッカーグランドがあり、更にその先に野球グランドが延々と続く。)
右岸は戸手地区で、この方向の先に富士山がある。高層ビルは戸手地区の下手側に出来ているスーパー堤防上のマンションで、その左側に川崎駅に近い区域のテクノピアビル群が見える。

左の写真は、これも同じ日に撮った別の株群で、こちらも殆ど花は終わって痩果になっているが、こちらは日が未だ浅い若い痩果とみられ、上の方に載せた熟し掛かったような色ではなく緑色が主になっている。

ここからの写真6枚は、翌2015年4月29日の撮影。

左の写真は雄花を撮ったもので、蕾が開き掛かった時点を捉えている。黄色くバナナのように見えるのは葯で、数多く見えるが、2本がセットになっていて、実際の数は6個である。葯の長さは2〜3ミリ程度。

この写真は開く前の葯と、開いて花粉を飛ばした直後の葯が写っている。
葯の根元に僅かに短い花糸が見えているものがある。葯は開いて花粉を飛ばすと、直に容器そのものも脱落してしまうようで、7枚上に掲載した写真のヒトデ状のものは、この花糸の部分が残った痕と思われる。


これも雄花だが、雄花には緑色や黄色のものもある一方、このように艶やかな色をしているものもあり、花被片の色は雌花より雄花の方が多彩で美しい。

これは茎に付く葉の形と、基部が茎を抱く様子を撮ったもの。


 

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