<参考36>  河川敷の夏から秋にかけての草木と花


     【リンドウ科】  シマセンブリ属 : ハナハマセンブリ・(ベニバナセンブリ)

 

このハナハマセンブリは、左岸の空港敷地から環八道路を超えて多摩川本流沿いに続く草地(河口からの距離1キロメートル標の近傍)で撮った。特に海に近い場所に限定的な種という訳では無く、六郷の方で見られたとしてもおかしくはないと聞いている。
撮影したのは2015年7月13日。多摩川の自然を守る会のこの年の6月の定例観察会が、弁天橋から零点場所までの区間で行われたが、その日は天候が悪いという予報で、レインウエアを着用しての参加だったので、カメラを持っていく余裕は無かった。
この区間は空港敷地の一部のようではあるが、多摩川の沿岸部一帯に関しては、空港のオキテンに伴う移転跡地として、かねてより地元に返還される予定地になっていて、羽田東急ホテルなどこの区域にあった建物が解体撤去された後も、空地のまゝ放置され、中途半端な空港の管理地になっている。

この区間が長年行方が定まらず放置されているのは、地元への返還予定地であることは変わらないものの、オキテンが決まった当時には想定もされていなかった、第4滑走路の新設とその後に引き続いた国際線復活に伴う国際線専用の整備(ターミナル、エプロン、倉庫、駐車場、等々の建設)など、敷地内での変化が続き、当初神奈川口構想などを標榜し、頓挫した後も連絡橋の架橋を要望する対岸の川崎市(川崎区殿町地区)との連携問題なども絡み、全体の青写真が変遷し状況がなかなか定まらないことが原因している。
だが近年になってこの川縁のこの敷地の中にも、かって三愛石油が航空機の給油システム「ハイドラント・システム」のジェット燃料受入基地としていた桟橋が、日本空港ビルディングに買取られて、横浜のみなとみらいやお台場海浜公園と結ぶ定期船の準備として、桟橋が一般船舶用に改造され、まともな待合室が作られたりしている。羽田東急ホテルの跡地近辺でも、空港のインフラに関わると思われる建設工事が行われるようになっている。本当に地元に返還される土地はあるのか疑問に感じる雰囲気になってきた。

然し海老取川分流口(弁天橋)かわ零点までの区間は2キロメートル余りあり、まだまだ手付かずで放置されている区間も長い。とりわけ旧ホテル跡地の上手になる1キロメートル標近傍の草地には、以前から六郷界隈の外来種を中心とした雑草群とは一寸違った種類が見られることが確認されていた。
この年の観察会でも目新しい発見があったようだが、カメラも持っていなかったし、内容は専門的で付いていけないというのが正直な所だった。ただこの草地で見られたネジバナ(ラン科)やハナハマセンブリは、当地限定の希少種という訳では無く、偶々六郷界隈でこれまで見てこられなかっただけのことだが、この際ネジバナだけは詳細を撮っておきたいと思い、あわよくばハチジョウナが咲いていればと思い、例会から一か月近く経った頃に再びこの地を訪れた。
1キロメートル標の近傍に広がる草地は一面にムラサキツメクサで覆われたようになっていて、生憎もうネジバナは一本も残っていなかったが、ハナハマセンブリは未だ少し残っていたので、この写真を撮ることが出来た。


ここからの7枚の写真は、2016年6月4日に六郷橋下の川下側で水域に近い辺りにある草地で撮った。
この草地は川下側の後ろにはトウネズミモチなどの大きな木本が並び、その手前側にタチバナモドキが何本もある広場のような場所だが、河川敷として利用されている訳ではないので、常時何らかの草が茂っている。この日はこの草地のあちこちに出ているヒメコバンソウの写真を撮ることをメインにしていた。ヒメコバンソウのように小さな花で風に揺れるものは、コンパクトデジカメのマクロ機能程度で撮るのは容易では無い。
ヒメコバンソウでマアマアこの程度で仕方ないかという写真を撮って、帰ろうとした小道脇にハナハマセンブリを見付けて撮ったのがこの写真。

この界隈にはこの時期までに、アカバナユウゲショウがあちこちに出ているので、赤い花を見ても通り過ぎることが多い。偶々この近くにもヒメコバンソウがあったので屈んでよく見ることになり、ハナハマセンブリであることが分かって撮ることになった。
ヒメコバンソウに比べれば圧倒的に撮影は楽で、花を次々に撮ったが、帰ってから、もっと葉や根元などを撮ってくれば良かったと後悔したが、未だ時期的にはこれからでもあるので、撮り直しに行く機会は幾らもあるだろうから、忘れないようにしようと思った。

ハナハマセンブリは同属のベニバナセンブリと紛らわしく、よく双方の違いについて、あるいは見分け方について書かれたものを多く見るが、両方を並べて見比べたりできる場合でなければ分かり難いような要素が主で、個体差に紛れて見間違うような要素もあって、判定は難しい。

ここでは昨年の羽田のものも、今年の六郷のものも、どちらもハナハマセンブリとして載せているが、ベニバナセンブリである可能性もあり、断定する自信は無いので、表題には双方を並べて記載した次第である。

草には一般に幾らかの個体差があるし、地域によってそれなりの特徴が付加されるため、どこまでのことが汎用的な差異と言えるのか判定は難しい。
然し花を見る楽しみということもあるので、参考のため、以下に一般に言われている双方の相違点なるものを載せておく。

ベニバナセンブリの方が花は一回り大きく、花弁の幅もベニバナセンブリの方が広い。
(但し花冠の大きさは10センチ前後であるのに対して、言われている双方の花冠の大きさの差は高々2センチ程度に止まるので、見てすぐに分かるという程の差では無い。花弁の幅については、ベニバナセンブリの花弁はふっくらとして幅広く、付け根で重なり合うほど幅広であるのに対して、ハナハマセンブリの場合は花弁の幅は平行的で、付け根で重なり合うこともなく独立した印象である。)

花弁の色はいずれも赤紫系だが、ベニバナセンブリの花弁の色はやゝ淡く、中央の白色部が小さかったり曖昧であったりして、その境界が不鮮明であるのに対して、ハナハマセンブリの花弁はくっきりとした紅色が濃い色で、中心の白色部は明瞭かつ、その境界線もかなり明瞭である。
ベニバナセンブリの花冠では、花弁が外向きに反っているケースを見ることがあるが、ハナハマセンブリではそのような例は見掛けない。

花期に根生葉が残っていればベニバナセンブリでハナハマセンブリでは普通花期には根生葉は既に枯れていて認められない。葉形はハナハマセンブリは長卵形で幾らか丸味を帯び、茎に付く葉は十字対生して茎を抱く。ベニバナセンブリの葉はハナハマセンブリより幾らか細長く、先の尖った長楕円形で葉縁がやゝ波打つ。
尚、双方の違いに関して葯の形に言及される場合があるが、咲き始めの葯が次第に棒状になり、花粉放出の時点で螺旋状に捻じれた恰好になるのは、シマセンブリ属としての特徴であり、双方の相違点ではないと注釈された書き物を見たことがある。
以上がほゞ定説のような扱いで記載されていることだが、ベニバナセンブリで花弁の色が淡いピンク色であるのに花弁の幅がハナハマセンブリに近いような細身である花冠の写真を見掛けることがあるし、観察した事実として、花時の根生葉の有無についてはそれほど決定的な双方の相違点とは言えないと指摘している人もいることを付言しておく。

ベニバナセンブリはヨーロッパ原産で、近代(大正時代中期頃)になって日本に持ち込まれたと言われている2年草。
一方ハナハマセンブリは同じく欧州原産ながら、現代になって帰化していることが発見された新しい外来植物。こちらは1年草とされている。

草丈は20〜50センチ程度で、6月頃からどちらも似たような複集散花序に多くの花を付ける。但し花は夕方には早めに閉じてしまい、雨天や曇天の日には花を開かない。
通常は5弁花だが、稀に6弁花のものが見られる。花筒は長く、萼片が花筒の半分程度を被う。茎は4稜で中空。

このページでは、花弁の色感情報を主要な拠り所として、取り敢えず全てハナハマセンブリとして載せてしまったが、自信を持って断定するだけの根拠があってのことでは無い。
ハナハマセンブリが取り上げられるようになったのは1988年と言われる程、日本に於けるハナハマセンブリの歴史は浅い。従ってベニバナセンブリとの区別については、専門家の間でも十分に検討され結果が出ているとは思われず、野草愛好家のレベルで色々なことが言われている段階という感じがする。
もし今後両種について確信を持てるような、より定かな判別根拠が得られるようになったら、その時点で必要に応じて修正する積りでいる。

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