<参考26>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花

 

     【キク科】  キオン属 : ノボロギク

 

キク科の草種の中には、ガク(総苞片)ばかりで花弁が認められず、知らない内は、もうこの花は終わって散った後なのだろうと錯覚させるような、奇妙な花を咲かせる種が幾つかある。(実際にはガクは下の方の僅かな部分だけで、大部分は筒状花の本体である。)
秋に咲くものとしては、オオアレチノギクやヒメムカシヨモギなどがその代表格といえるが、春に咲くものの中にも似たような花がある。それがこのノボロギクだ。
イネやムギなどの伝来に伴ってやってきた古い帰化植物ではなく、明治になってヨーロッパから移入した外来種とのこと。よく見れば筒状花だけでも、それなりに可愛いと言えなくはないが、一寸見にはこんな鑑賞に不向きと思われるような種がどのようにして持ち込まれてきたのか不思議とも思える。
この界隈でノボロギクはそれほど多く見られる訳ではない。この写真は、2014年初めに多摩川緑地の下手の側の堤防下の法尻から通路までの間で意味不明の工事が行われ、仕上に芝マットを載せるために持ち込まれた土から多種の草種が芽生えた時期、ノボロギクもその中にかなり多く混じっていた。

新しい土から芽生えたものはその期間は野性に揉まれた汚れが少ない。そんなことで、これらのノボロギクも綺麗に見えたのでそこで撮ったものである。

この手の(無いように見える)花でも、花後の綿帽子はその割りに大きく、ちゃんとした球形のものを作るので、これも勉強しないと理解し難く、違和感を感じてしまう。
周囲に舌状花(花弁)を広げる、普通一般の野菊などでも、実際には舌状花は飾りの役割でしかない場合が多く、花後は御用済みで枯れて脱落してしまう。
種子形成を担うのは中心部にある筒状花の方で、花後に種子が熟する頃までに、筒状花の奥の方から白色の冠毛を伸ばし、やがてガク(総苞片)が付根まで開裂して冠毛を球形に広げる。

冠毛は下部に付けた痩果を飛ばすための道具で、種によって構造は多少異なるが、舌状花(花弁)が有ろうが無かろうが、花後に痩果が出来るのを待って綿帽子を作るまでの過程には大差ないので、出来てくる綿帽子の大きさにも大差はなく、大きな舌状花を持った花に比べ、この手の花には奇異に思えるほど綿帽子が大きく見えてしまうのである。
要するにどのキクもガクや筒状花は同じような大きさがあって、花後その先に冠毛を伸ばしたものが準備段階で、機が熟してガクが付け根まで裂け、痩果を擁した冠毛が球状に展開したものが綿帽子なのだと考えれば、この手の花が特段に無理をして大きな綿帽子を作っている訳ではないことに納得がいく。


左の写真は2015年3月下旬に六郷橋緑地で撮った。護岸縁のモモやオオシマザクラなどを撮った帰り道で、綺麗に仕上がった綿帽子を見て思わずしゃがんでこれを撮った。
筒状花がこの位あれば、冠毛を伸ばして綿帽子を作ればの程度の大きさになると、理屈では分かっていても、こうして花と並んであると、やはり花と比べて綿帽子が異様に大きく感じてしまい、正直言って違和感が否めない。
 


 

     【キク科】  ハハコグサ属 : ハハコグサ・ウラジロチチコグサ・チチコグサモドキ

 

ハハコグサは越年性の1年草である。春の七草の1つである御形(ごぎょう、おぎょう)はこの草のことで、若芽をゆがいて七草粥の具にする。昔は草餅の材料として使用されていたらしいが、近代以降になって次第に蓬(ヨモギ)に換わった。
ハハコグサという和名は、広辞苑でも母子草として載っていて、自然にそう書かれる例が多いが、和名の由来は茎や葉に密生する白い綿毛が「ほおけ立つ」(蓬け起つ:ほつれ乱れて伸びる、毛羽立つ)ことから「ホウコグサ」と呼ばれていたものが訛ってハハコグサになったとする説明を見かける。
ハハコグサの花はキク科の中でもかなり変わっている。小さな筒状花が集まって頭花を形成しているが、中央部は両性花でその外周に細い管状の雌花が並ぶ。全体に薬草という印象のある草種である。

ハハコグサが見られたのは2007頃で、安養寺前辺りの堤防法面に多様な種類が見られた時期で、その後はこの近辺では見ることは無くなった。

前川 文夫(1908.10 - 1984.1)が提唱した「史前帰化植物」には大風呂敷との批判もあるところだが、外来種の区別もよく付かない素人には、古来よりあった種を知る上では参考になる。前川氏は「史前帰化植物」を稲作に付随するもの、麦に関わるもの、いずれにも関係しないものに3分しているが、ハハコグサは麦に伴って渡来した種に含まれる。
ちなみに各例を数種挙げておくと、稲作に伴う帰化種には、イヌタデ、メドハギ、ヨモギ、オナモミ、オヒシバ、メヒシバ、カゼクサ、チガヤ、チカラシバ、キンエノコロ、イグサなど、麦畑に伴う帰化種には、ハハコグサ、ハコベ、ナズナ、カタバミ、サギゴケ、ヤエムグラ、ジシバリ、カラスムギ、カモジグサ、ツユクサなど、双方に関係しない帰化種としては、ヒガンバナ、ヤブカンゾウなどが挙げられている。





 


 
ウラジロチチコグサは5月中旬から下旬に掛けて、多摩川緑地の散策路沿い(本流と河川敷を仕切る土手の法尻辺り)から六郷橋までの川沿いの散策路沿いのあちこちに多く見られる。
最初の写真のように塔状に立ち上がった集散花序の高さは20センチ位。

左の写真は全て、2015年5月20日〜25日に、多摩川緑地の水路側散策路と、京急鉄橋下から六郷橋下に抜ける小道に沿うあちこちで撮ったもの。

花が終わると総苞が閉じ、子房の熟成が進む。 左の写真は既に塔を高めた花軸の先端部分で、総苞が閉じたものが並んでいる部分を撮った。

個々の花は壺状で総苞が筒状花を支えている。緑色のものは花の段階にある。総苞は閉じると茶褐色に変色し、やがて開いて種子を放出する。
開いた総苞片の内側は白く、離れてみるとこれが花弁で、白い部分が花が咲いているように錯覚する。

この写真には放出された種子が、幾つか引っかかって、未だここに止まっているのが見える。
種子は10本近い綿毛を付け、種子はその中心にあって蜘蛛に似たような感じになっていることが分かる。

これは開いた総苞をズームした写真だが、総苞片はこれに限らず、すべてこのように先端が外に折れ曲がるほど極端に開ききる。何故ここまで開くのか、種子を放った後の総苞片に、まだ何か役割が残っているのか、不思議に思われる姿である。

左の写真は根元付近を撮ったもの。葉は幅がほゞ一様な長方形に近く、葉縁は波打っている。茎は不相応に見えるほど太い。

この写真は花序が未だ塔を建てるほど育っていない若い株。花は蕾ばかりだが、蕾のうちは先が綺麗な赤紫色をして、花の形はまだ壺型にはなっておらず円錐形をしている。

名前のウラジロという部分は裏白からきているが、この写真では無理に裏側から撮って裏白の実際を示している。これは若い株だが、成長した株に於いても葉の裏面と茎の表面は白い。

この写真も閉じた双方が集中している部分で、2か所は既に開いているが、未だ多くの種子が放出される条件が整っている。

どういう場合に種子が飛び散らず、このように本体に巻き付いてしまうのか、その経緯は不明だが、このように多くの種子が本体にくっついた姿は結構頻繁に見られる。

これは蕾と花だけの部分を撮ったもの。先の尖った円錐形が蕾で、元が膨らんで壺型になったものは咲いた筒状花である。

これは緑色の花と先端は花が終わって、ベージュ色の総苞に包まれ、開き掛かっているものと、開いてそう種子を飛ばし、反り返るほど開ききった白い総苞片が見えている。


この写真では、本体に巻き付いた種子をズームしているが、綿毛の中には中心部の種子が無いものもある。つまり種子を失っても、綿毛は互いにくっ付いていて、環状に形を維持するような構造になっている。

 


 
チチコグサモドキはウラジロチチコグサほどは多くないが、それほど珍しいというものではない。
ここの8枚の写真は、2015年6月7日の撮影で、大師橋緑地先の水際の荒地で、シオクグの実やクサイの花を撮ろうと思って行った折に、偶々堤防から河川敷に降りる坂路の法面に群れているのを見て撮った。
既に花は無く全て果実の状態になっていたが、これまでノーマークだったので仕方ない。ここで大量にあったことでその存在に気が付き、この後あちこちでチラホラ見付けたが、もう皆同じ果実状態だった。

原産地はウラジロチチコグサが南アメリカで、チチコグサモドキは北アメリカらしいが、既に現状では汎世界的に侵略的に広がっているという。








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