<参考26>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花


     【シソ科】  カキドオシ属 : ヒメオドリコソウ・ホトケノザ・カキドオシ

 

ヒメオドリコソウはヨーロッパ原産の一年草。近代からの帰化植物だが、日本全国に広がり、畑や路傍でもみられるような雑草となった。
名前の由来は、同じ属に日本の在来種としてオドリコソウというのがあり、背丈が高く花も大きいもので、そのためこの帰化種をヒメを冠してヒメオドリコソウとしたようだ。ただし在来種のオドリコソウの花は茎の途中で茎一周を10枚程度の傘をかぶったような花弁が華やかに取り巻く輪形で、踊子草の名前に似つかわしい花だが、ヒメオドリコソウの花はそれとは全く似ていない。

2008年頃の春には多摩川緑地から多摩川大橋までの堤防法面には多彩な種類の草本が見られたが、ヒメオドリコソウもその頃がピークで、ホトケノザと共に春の堤防敷き周辺のあちこちで見られた。概ね日当たりの良いところで、若い内は葉は黄色味を帯び、上の方は赤味を帯びる。数十株の塊りで見られるケースが多いが、2,3株で孤立して生えている場合もある。
日当たりの悪い場所では上部の葉も緑色を堅持するらしいが、川ではどこも日当たりは良く、どこで見ても上部の葉はみな同じような赤い色をしていた。

やがて株が成長を終えると、4月末頃には、上部の葉の脇から赤紫色のシソ科特有の唇状花を多く出すようになるようになる。

以後多摩川のこの地域では次第に減っていくが、この辺りの川の周辺でヒメオドリコソウが完全に消滅してしまった訳ではなく、特にトミンタワーやヤマハボート地点の界隈では、春にヒメオドリコソウを見ることは珍しくはない。




 


 

ホトケノザはアジアや地中海沿岸地域など、世界の温帯地方に広く分布する1年草。花は春で花期は長い。花は赤が鮮やかなものもあり目立ち易い。
春の七草にあるホトケノザは、キク科でジシバリに似た花を咲かせるコオニタビラコのことで、この種のことではなく、このホトケノザは食用にはならない。
ちなみに春の七草の現在名を()書きで記すと、セリ(セリ)、ナズナ(ナズナ)、ゴギョウ(ハハコグサ)、ハコベラ(ハコベ)、ホトケノザ(コオニタビラコ)、スズナ(カブ)、ズズシロ(ダイコン)となる。七草粥は季節の節目に当たる五節句の一つである人日(じんじつ)の節句(1月7日)の朝に、一年の無病息災を願って、この7種の野菜を刻んで入れた粥を食べるもので、平安・室町の頃から伝わる風習である。

ホトケノザとは花の下に付く葉を「仏の座」に見立てたものであろう。これも2008年をピークに減ってしまったが、やはり細々とは続いていて、完全に消滅してしまった訳ではない。







遺伝子の異常により先天的に性色素欠乏症を起こすものをアルビノといい、魚類などではそれほど珍しいことではない。植物ではあまり聞かないが、光合成色素を合成できなければ生存し続けることは出来ず枯れてしまう。ただ茎や葉が正常で、花だけが白色化した個体は、生存エネルギーの獲得には支障ないので、変異種として生育していく。
ホトケノザの白花は珍しいのではないだろうか。過去にはムラサキツメクサの白花を見ただけだったが、2014年にはこのホトケノザの他にも、西六郷と南六郷の双方でカラスノエンドウの白花を見た。
このホトケノザは多摩川緑地の堤防法尻近傍の平面を工事した一帯に芽生えた各種の植物種の中に一塊だけあった。花は蕾の頃は幾分ピンク色をして、縮小写真ではその秀麗な雰囲気が消されてしまうが、単に白色のホトケノザが珍しいというだけでなく、このピンク色には普通のホトケノザのピンクとはまた違った魅力があった。






 


 

カキドオシは日本全土に分布するつる性の多年草。薬効があるとされ、全草を乾燥させたものは漢方薬の原料にされるという。

左の写真は上3枚と5枚目はガス橋下手の水路側の荒地で撮った。4枚目は六郷橋上手の水路側荒地(草地)で撮った。下の4枚は2014年に多摩川大橋上手の草地で撮った。
ガス橋下手の荒地は初夏から秋まで大半が葛に覆われるが、仔細に見れば色々なものがある。このカキドオシはかなりの群生を形成し、下に載せたマルバハッカの群生と隣接していた。この辺にはナナホシテントウが多く、春には未だ蛹の状態で葉に付いているものも認められる。この写真を撮ったのは4月中旬だったが、花はそれほど多くはなく、ポツポツという状態だった。

六郷の方は4月下旬だったが、これは群生というような状態ではなく、荒地の中、HLが通るためのような細道の脇で、クサノオウなどが数株ずつ点在するのを撮っていたとき、草地の中に僅かに混在してあったものを撮った。

多摩川大橋の上手の河川敷には岸辺の散策路寄りに、大田区が整備していると思われる、夾竹桃や灯台躑躅など栽培種系統の低木が幾らか植えられた公園風の場所があるが、その岸辺の散策路側に(多分近辺の住民が植えたと思われる)サイネリアなど園芸種が幾らか植えた場所があり、丁度そうした場所の河川敷側の縁にカキドオシがあって、これはガス橋下手の荒れ地ほど大きな群生ではないが、状態は良く花も整ったものが多く見られ、下の4枚は2014年の4月中旬の終わり頃にここで撮った。

カキドオシは普通に撮っていると、下唇に見られる斑紋のような綺麗な模様にばかり注意が向くが、この花の特徴の一つに、下唇の中間にクシのように横断的に生え揃った毛の存在がある。
花冠の奥に入るのをガードするかのように生えているが、5枚目や8枚目の写真のようにして見ないと良く分らないので、普通に見ているだけでは、この毛の存在には気が付き難い。
葉先が小さな半円形で囲まれるように細かく切れ目の入った円腎形の葉も特徴的なもので、サギゴケなど花が似て見えるものと区別するのに役に立つ。

ガス橋下手の荒れ地にあるカキドオシやマルハバッカの群生地は、ナナホシテントウの繁殖地になっていて、春先頃には幼虫や蛹が多く見られる。ナナホシテントウの主要な餌は幼虫成虫ともにアブラムシなので、この界隈にはアブラムシも多いのだろう。
ナナホシテントウは春アブラムシが活動を始めるころに産卵し、それを食べた世代が晩春にあらわれ、二世代目は夏に出現して、そのまま成虫として越冬する。アブラムシを食べる有用性から、近年空気ファンによる吸引の先にネットを置いて、そこにテントウムシを放ち、動きが鈍くなった状態にして、人手によって一匹一匹の羽に液状の接着剤を垂らし、こうして飛べなくしたテントウムシを使用し、殺虫剤を使用しないイチゴのハウス栽培などが試験されている。








 


 

     【シソ科】  キランソウ属 : セイヨウジュウニヒトエ (参考)

 

セイヨウジュウニヒトエは北米が原産地らしいが、日本には江戸時代にヨーロッパから移入されたという。園芸種だが栽培地から逃げ出したものが既にかなり野生化しているとのことだが、多摩川のこの界隈で普通に見られるという訳ではなく、ここではシソ科の参考種という意味で載せた。

これを撮った場所は、西六郷の堤防一里塚の上手の堤防裏にある特異な場所で、撮影日は2015年4月15日。
この場所は堤防裏の法尻で、現在は特に誰が利用しているということはないが、かなり前に今消防道具の置き場となっている小屋(旧堤道路の上り口の裏側)の辺りに人が居て、この辺りに色々なものを植えていたらしく、多年草類はいまだに季節の折々に姿を見せることがある。
春にはこれがかなり何本も出て、色が目立つし、名前も優雅なところがあるので、如何にも園芸種という雰囲気だが、花はシソ科らしい唇形花でなので参考とした。ただ園芸種の御多聞に漏れず、この種も現在では様々な色のものが開発されているようなので、アジサイなどと同様、セイヨウジュウニヒトエもこの色のものに限定されている訳ではないことを付言しておく。




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