<参考26>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花


     【ゴマノハグサ科】  サギゴケ属 : サギゴケ

 

サギゴケには白いものもあるらしく、されをサギゴケと言って、これはあえて「ムラサキサギゴケ」と呼称される場合がある。日本では北海道を除くほゞ全国に分布する。湿気て日当たりの良い場所に生える多年草。匍匐茎で広がり立ち上がることはない。
この辺りでは、JRと京急の六郷橋梁の間に整地されたバイオリン公園の芝生に混成し、特に京急側に沿って、春にはかなり広範囲に花を咲かせている。また六郷橋緑地でも、雑色ポンプ所の前のやゝ上手側、岸辺の散策路に近い辺りにやはり芝生に混成して存在し、春には花を咲かせている。多摩川緑地では下手側寄りの堤防とは反対側の散策路沿いの芝地で散見する。
花はそれほど大きいものではないので、注意深く見て歩き、見付けたらしゃがんでよく観察する。一つ見つければその周辺には広く分布しているので次々に見つかる。中央の黄褐色の模様のある部分に白く短い毛が多く生えている。花の上唇は大抵の場合深裂している。

左の写真は上の方は2013年に撮ったもので、下の方でズームが綺麗に撮れているのは、2014年4月上旬から中旬に掛けて、バイオリン公園で撮った。下の方で花が濡れているのは、雨上がり直後に撮ったせいである。京急側の端に沿い幾らか奥に進んだ近辺は人に踏み荒らされることも少なく、端正な花を容易に見付けられる。

ムラサキサギゴケと花がよく似た同属にトキワハゼというのがある。こちらがサギゴケより一回り花が小さく、上唇の切れ込みが浅いこと、匍匐せず立ち上がる姿などで区別する。サギゴケは園芸種としても一般に売っていて、白いものにももともと白いサギゴケと紫サギゴケの白花種があったりで複雑化している。






 


 

     【ゴマノハグサ科】  ウンラン属 : マツバウンラン

 

この界隈にマツバウンランが出現した経緯については、フウロソウ科アメリカフウロの項や、このページの上の方のオオカワヂシャの項に詳述したので、ここでは繰り返さない。
写真はいずれも2007年5月初旬の撮影で、1枚目は川下側から上手を向いて堤防の法面を撮ったもので、左端に写っている坂路はトミンタワー前に二つある坂路の内川下側のもので、大雑把な位置関係が分かる。2枚目もその近辺だが、逆に川下側を向いて撮っている。3枚目、4枚目はいずれも堤防の下から天端の方を見上げる形で、マツバウンランが真っ直ぐ上を向いて伸びていることが分かる写真。5枚目はやゝ近接して茎の緑と花の薄紫のコントラストを見たもの。6枚目は川を入れたいので、逆に水路の方向を向いていて、幾分逆光気味で色は悪いが、多摩川大橋方面をバックに撮っている。その下の3枚は花をズームインでアップしたもので、シソ科の花である特徴が良く分かる。

2014年現在、当地のマツバウンランはほゞ完全に消滅してしまった状態にあるが、2015年に下手側の緑地管理事務所下の法面に現れ、久々で懐かしい感じがあった。









 


 

     【ゴマノハグサ科】  キンバラリア属 : ツタバウンラン(参考)

 

2014年初めに多摩川緑地の堤防下で、法尻から舗装道路までの間、(場所によっては通路を越えて河川敷に幾分入る幅で、)国交省により目的不明の工事が行われた。シャベルカーを使って50センチ程度掘り下げていたので、今この下流部の堤防敷で全盛となっているセイバンモロコシを根こそぎで排除し、除草の手間を削減することを意図しての工事だったかも知れない。
堤防周辺での優占種は栄枯盛衰を繰り返している。自然に逆らって今全盛のセイバンモロコシと闘うことに成算があるのかどうか、無駄な出費のように思える工事だった。仕上は切芝のマットを市松状に貼ったが、案の定、程なくして一帯は雑草だらけとなり、除草が行われたり、工事が手直しになったりと、傍目には「愚かな・・・」という思いが否めなかった。
改修された工事の後、春の時期に入って、市松の芝の無い部分から、順次様々な草が芽生えてきて、やがて芝の部分も被って一帯は恰も花畑のような感じになった。この範囲は都道・旧堤道路が堤防上に上がってくる地点)から、JR橋梁の上手側にある緑地管理事務所の前までで、切芝を植えた当初はロープを張って、立入禁止としていたが、芝が拡張してくるまでもなく、全体は多様な草で覆われ、見たことの無い種や珍しいものが出て、格好の勉強実学の場所となった。

ハナイバナ、ムシクサ、タチイヌノフグリ、ツメクサ、ハマツメクサ、ノミノツヅリ、ホトケノザの白花タイプなどの実物を初めて見たほか、オオアラセイトウやジャーマンカモミールのような栽培種も見られ、通常種としては、ノコンギク、ハハコグサ、キュウリグサ、ミドリハコベ、オランダミミナグサ、ホトケノザ、ミチタネツケバナなどが多かった種で、これらも野性環境に揉まれたものとは違って、花壇に生えたかのような瑞々しく綺麗な花を咲かせていた。そんな中にこのツタバウンランも一株だけあった。この一帯は、新しいものを探して何回も歩いて調べたが、このツタバウンランを見たのは一度きりで、その時点では、何か薄汚れたような花だなという第一印象だったので、参考程度の扱いでムキになって撮ってはいない。その後”新種”と分かってからは、意図的に探したものの見つけられず、後になって、あの時撮っておいてよかったなァとつくづく思ったものである。
別名をツタガラクサと言うようだが、図鑑や辞典によって扱いが一定しておらず、ツタバウンランという場合は1年草とされ、ツタガラクサと書かれる場合には多年草とされる傾向があるらしい。いずれにしてもこの際は誰かに持ち去られた可能性が高く、仮に宿根性の多年草だったとしても来年見られる可能性は無いと思われる。通常見られる種ではないので(参考)扱いとして載せた。

 


 

     【ゴマノハグサ科】  フジウツギ属 (ブッドレア) : フサフジウツギ (参考)

 

フサフジウツギは木本(落葉低木)であり、本来は目次の場所は下段になるべきものだが、わずかな(参考)としての掲載なので、ここに載せておくことにした。

近年分類についての見直しが進んで、これまでの所属とは異なる科に変更となるものが出てきている。そこでここでは、被子植物の分類についての歴史的な経緯を、ウィキペディアを参照し、そこから記述を抜粋して以下に紹介する。
被子植物の分類はリンネに始まり、形態で分類する基礎が築かれたが、その後進化の系統的な関係を分類の基準にするべきだとして、19世紀末からエングラー体系が提唱されるようになった。エングラー体系は「被子植物の中で、おしべ1本とめしべ1本を持つ単純な構造の花を原始的な形態とみなし、そのような植物分類群から複雑な構造の花を持つ群へと進化したものと考えて、系統的に配列分類する」ものと書かれている。

その後20世紀後半からはクロンキスト体系が提唱されるようになった。クロンキスト体系では、エングラー体系のように、単純な構造を持つ花を原始的な形態と判断し、そこから複雑な構造の花が進化したと考えるのではなく、「花被・おしべ・めしべ等が多数に軸の周りを螺旋状に配列している両性花を出発点とし、この原始的被子植物から種々の植物群が進化した」とするストロビロイド仮説を採用する。この分類体系によれば、原始的被子植物の形態的特徴をもっともよく保存しているモクレンの仲間を最初に配列することになり、双子葉植物の最後に位置するのは、もっとも進化した形態特徴をもつとされるキクの仲間ということになる。
その後遺伝子研究が進展しゲノム解析の技術的進歩に従い、被子植物系統グループ (Angiosperm Phylogeny Group) が登場、「エングラー体系やクロンキスト体系がマクロ形態的な仮説を根拠に演繹的に分類体系を作り上げたのに対して、ミクロなゲノム解析から実証的に分類体系を構築する」根本的に異なる分類手法が進められた。この分類法は「APG分類体系」などと呼ばれる。

1990年代以降にDNA解析による分子系統学が大きく発展してきた。植物の分類体系も、この手法を試みる研究が分類学において主流になりつつある。特に葉緑体DNAの解析から、被子植物の分岐を調査する研究は近年飛躍的に進み、新しい知見は APG (Angiosperm Phylogeny Group) に集約されている。学術先端分野はすでにAPGの体系に移行し、クロンキスト体系は歴史的体系として扱われている。
かつてはフジウツギ科が独立してあったが、現在の新しいAPG植物分類体系ではフジウツギ属はゴマノハグサ科に含まれるようになった。逆に上のツタバウンランは新しい分類ではオオバコ科にツタバウンラン属を設けるが、多くの図鑑では今でもツタバウンランはゴマノハグサ科キンバリア属としているので、ここでもそれに従った。

フサフジウツギは園芸用に最もよく栽培されている種で、野性化しているものも多いという。中国原産というのが通説だが、チチブフジウツギという別名もあり、在来種と考える説もあるようだ。

左の写真は2013年7月中旬に、ガス橋下手の荒れ地の中で撮った。ガス橋下手の荒れ地は春にはクサヨシで覆われ、初夏からはクズに覆われる草薮で、年により幾分か藪の深さには差がある。
2013年は、この荒れ地の中の幾らか開けた部分に園芸種由来の草種が幾つか見られ、下手の多摩川緑地などに沿う荒れ地の方では未だ姿を見ないオオキンケイギクやアラゲハンゴウソウなどもあった。そんな状態の中でこのフサフジウツギも数本が1メートル程度の大きさになって、写真のようなブッドレアに典型的な花を咲かせていた。
この荒れ地にはHLが何軒か定着していて、ハナカンナとは一寸違った(花弁横に開かず上に伸びたまま)ショクヨウカンナ(原種の一つとされるダンドクとの中間種のようで根茎をデンプンを採るための食用にする)が見られたりするが、特にこの藪地をいじっている気配は無く、むしろ近隣の住民がここで植物を遊んでいる可能性が高い。

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