<参考26>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花


     【バラ科】  ヘビイチゴ属 : ヘビイチゴ・ヤブヘビイチゴ

 

ヘビイチゴは東南アジア、日本が原産地。名前からして食べるものでないという印象を受けるが、実際その実は毒は無いものの食べても美味しくないことが知られている。木本系のクサイチゴなどの野イチゴは一般に食べて美味しいとされるので、野イチゴとしては異端的な存在だ。
だが残念ながら赤い実の写真はゲットできていない。そもそもヘビイチゴ自身がそれほど何処にでも見られるというほど多くは無く、あってもパラパラで、まとまって存在するのは見たことがない。人が食べて美味しくないとか、味がしないというようなものは、鳥など他の動物にとってはどうなのだろうか。コアラが特定のユーカリしか食べないとかいう例は他にいくらでもあって、毒があっては問題だが、人の味覚で食用の有無は判断できない。この実も鳥などに食べられてしまっていることは考えられる。
大体、野イチゴでは白い花を咲かせるものは食べて美味しいと言われるが、このヘビイチゴは黄色で、よく似たヤブヘビイチゴとの区別は、葉で見分ける。いずれも3小葉から成り両袖の小葉が深裂して5小葉に見える場合がある点は似ているが、藪蛇イチゴの葉はより大きく、艶があって黒み掛かった濃い緑色をしているので見間違うことはないと言われる。

写真はあちこちで散発的に撮ったものを載せていたが、2014年の多摩川緑地の堤防下工事跡から芽生えたものの中に、綺麗なものが幾らか撮れたので差替えてある。最後の写真は花が終わって果実に移る前段階を伺わせるもので、綺麗ではないが参考のため載せておいた。

イチゴ類は一見したところ草本のように見えるものでも、低木とされるものがあり、これまで出会ったものではむしろ木本に仕訳されるものの方が多い。ナワシロイチゴやクサイチゴなどは幹が年輪をもつ木本というには違和感があるが分類上は低木とされ、今の所草本はこのヘビイチゴだけである。

ヘビイチゴの花はグランドを作るほどは広くない河川敷の芝生の端の部分などで多く見るが、そういう場所では中々実を見ることは無い。
2015年5月には、河川敷の脇などで見られるヘビイチゴは未だ花の状態だったので、この日はヘビイチゴではなくキイチゴ類の実を探しに、この繁み路の入口に多くの木が並ぶヒメカジイチゴで実を探し、次いで路に入って川上側に向かった。
この繁みを通る小道は、六郷橋の下から京急の鉄橋下に抜ける通路だが、この道の両脇では繁みの奥(河川敷側)がHLの居留地になっている。そんな事情で、中には獣道のような感じの小道があって、本流との境の繁みも僅かに切れている場所もあって、薄暗くはあるが真っ暗ではない。
竹が多い区域だが、途中河川敷側に向かう小道の角に、昨年クサイチゴを認めていたので、その辺りを目標に行ったが、昨年の場所には何も無く、諦めつつも河川敷方向に向かってみると、小道の両脇に赤いイチゴの実が点々と見つかった。

先に見つかった小さな実は、ヤブヘビイチゴだったが、その先では実が大きめのヘビイチゴが見られた。前にこの辺でヘビイチゴの花を見ていないので、まさかこんなところで、しかもこの早い時期に、ラッキー!という感じだった。
ヘビイチゴは花はあちこちで見るものの、これまで実を撮って無くて、この特集としても、唯一草本のイチゴの欄に実の写真が無いのでは様にならず、何とかどこかで撮れないかと思っていただけに、大喜びとなった。この並びには、乏しいもののクサイチゴらしきものもあって、この日は想定外の収穫となった。

ところが帰ってから撮ってきた写真を仔細に検査した結果、今日撮ってきた草本のイチゴは全てヤブヘビイチゴらしい、ということになってがっかりした。
5月中旬には、ヘビイチゴは未だあちこちに花が結構見られ、その周辺には実らしいものは出来ていない。ヘビイチゴは陽の当たる場所を好み、半日陰のような場所では見かけないなど、そうした状況から冷静に考えれば、今日見たものがヘビイチゴである可能性は元々低かった。



2015年もヘビイチゴの実を撮れる可能性は低くなったが、5月20日頃には未だJRの橋梁下の草地にかなり花があった。堤防方面はもうすっかり除草されて新たな段階に入ったが、橋梁下は刈られないので、この先このヘビイチゴの成り行きをウオッチしていけば、念願の実が撮れるのではないかと密かに思っていた。
ところが何と、5月下旬に入った頃、突如JRは橋梁下の草地を刈り始めた。橋梁は耐震工事を終えた後、全域を駐車場にしたことがあって、周辺整備に気を遣うようになり、草地も駐車場域に影響を及ぼすおそれのある外周部をすべて刈ってしまったのである。各区画毎に周辺部は幅1メートル程度が除草された。ヘビイチゴは陽当たりの良い最外辺にあったので、殆どが刈られ失われてしまった。
左の写真は2015年5月25日で、刈られた後の最前部に辛うじて残された2,3個の花の並びにあったもので、枯れつつあるのか、花から実になる途上なのかは不明だったが、一応撮っておいた。大きさは非常に小さかった。


5月にJR六郷橋梁の左岸側避溢橋の下で、各区画の周辺部が除草された際、辛うじて刈り取りを免れたヘビイチゴが、水路側の一画にあった。
5月30日に淡い期待をもってここを調べに行ったところ、3つ程度の赤いイチゴの実を見付けた。除草された雑草部のきわの辺りで未だ花もあり、左の写真のように、萼が畳まって実の熟成に入ったというものも数個あった。然し帰ってから、この時撮った実の写真を開いてみると、ヘビイチゴの実の特徴とされる、表皮や痩果の粒々にある筈のシワが認められず、大きさこそ10ミリもないような小振りなものだったが、ヤブヘビイチゴとの決定的な差異は明瞭ではなかった。
JR橋梁の下の花はヘビイチゴと思っていたので、イチゴの表面にシワが認められなかったことは予想外で不満だった。ただ未だ花が咲いていることも意外で、ヘビイチゴの花から実への時期がヤブヘビイチゴの時期に比べかなり後にずれているとすれば、この後本物のヘビイチゴが出現するかも知れないという期待も持ち続けた。(上の花の写真はこの時撮ったもので、花托に沢山のメシベが出ていることが見て取れる。)

JR六郷橋梁の左岸側避溢橋の下、各区画の周囲を除草するのは1回だけではなく、5月のあと6月にも再びより深く除草が行われた。5月の時点では、6月に再び大きく刈られることになるということは知らなかったが、実際には6月の除草が行われた日より幾らか前の、6月7日と11日にイチゴの確認に行き、前回の場所に隣接した奥側で、10個近くのイチゴの実を発見した。7日にはこれを発見して撮り始めたところ、運悪くカメラがバッテリーアウトとなり、11日に短い定規も持って再度撮影に行った。
左の5枚の写真はこの両日に撮ったもので、この際は実の表面に明瞭にシワが認められ、やっとヘビイチゴと確認できるものの写真をゲットできた。大きさは直径が平均8ミリで、大きいものでも10ミリ止まりだった。
5月中頃に六郷橋方向に向かう道の周辺で撮ったものは、径が15ミリ程度の大きさのものが多く、大きいものでは20ミリほどのものもあったことから見れば、明らかに小さいということになる。

ノイチゴ類の中には、一見したところ草のように見える小規模な個体でも、実際には木本に区分される種類が少なくない。木本に区分されるイチゴは、茎などの様子を仔細に見れば、草本ではない特徴が見て取れるが、そうしたこととは別に、双方の実には明瞭な差が認められる。
農水省が扱う際の食用の観点から言うと、木に生る果実は果物(くだもの)となり、木でないものは野菜ということになり、ハウスで栽培される草本のイチゴは野菜という扱いになるが、そうした定義はそれはそれとして、草本のイチゴの果実の出来方や見た目は、木に生るイチゴとは大きく異なる。

草本イチゴであるヤブヘビイチゴやヘビイチゴは偽果と呼ばれるものに似ている。ヘビイチゴなどの見た目の果実(果肉になる本体)は、子房が成長したカキやモモのような果実とは異なり、茎が変化してできた花托と呼ばれる痩果の土台で、球状に発達した花托の表面一杯に付いた小さな粒々が痩果で、それぞれの痩果の中に種子が抱かれている。
一方キイチゴ類の果実は、花托の周囲に分離した子房が成熟して出来た核果がまとまって付いた集合果で、見た目似たような複果には、多花からなるヤマグワのような果実があるが、キイチゴ類の集合果は多心皮から成る多数の分離子房が熟成集合したもので、ヤマグワのように花托が発達して果実状となり、痩果を内包した複果とは実体が異なる。




 


 

この下の9枚の写真は2015年5月17日、20日、25日に、京急電鉄の六郷鉄橋から六郷橋に抜ける裏通り沿いで撮った。
場所は3カ所だが、どこも花を確認してた場所ではない。従ってこの近辺でヤブヘビイチゴの果実が撮れるとは思っていなかった。
初めは5月17日。クサイチゴを探して水路際の道からHLの居留地がある方に幾らか進んだ辺り。クサイチゴも僅かにあったが、昨年よりは減っていて、その換わりに大き目のイチゴの実が散見された。形は真球状ではなく、市販の栽培苺に似た上下に伸びた形のものが多かった。

実には艶があったが、周囲に深緑と言えるような葉は見付からず、ヘビイチゴと変わらない程度の色合いの葉しか見当たらなかった。ただ多くの場合、実は長い柄の先にあって、実際どこから伸びてきているのか探るほど離れているものも珍しくなかった。
匍匐茎はヤブヘビイチゴの特徴の一つともされる。副萼片が萼片より大きいなどと言われるが、そういえばそうと言えなくもないものもあるという程度で、ヘビイチゴと比べて見ていないので確証は得られない。

大きさは10ミリ程度のものもあったが、15ミリ程度と大きいものがあり、最大の一個は20ミリ近くと思わせる大きさだった。いずれにしても、このように艶があってシワが無い実はヘビイチゴとは言えないが、草本のイチゴは他には考え付かないので、深緑の葉は無いものの、ヤブヘビイチゴに仕訳しておくことにした。


2度目は5月20日だった。この日は前回の場所をよく見て回ったあと、別の場所でもっと多くまとまって実が生っている場所を見付けた。京急側から入ってくる道の脇で、これだけの実が生っている以上、よほど明瞭に花が咲いていた筈だが、これまで気が付いてはいなかったことは不思議だ。
然しイチゴを追いかけ始めたのはここ2,3年のことで、今年は特に4月は多摩川緑地先の安養寺周辺の堤防法面にスイバが見られたことで、この機会にスイバを徹底的に追って掌握しておこうという状況で、桜の後はスイバに集中し、こっちの方には殆ど来ていなかったことを思い出した。


3度目は5月25日で、この日も更に、いつもの道から水路の方へ向かう小道へ回った所に多くのイチゴを見付けた。この道の周辺にはこんなに多くのイチゴがあるんだと驚いたが、実からの発見では喜びも半分というところだ。
場所は分かったので、来年は花からきちっと撮りたい。掲載は前後逆転という形になってしまうが致し方ない。花期は早いだろう。キイチゴやクサノオウが咲いている時点では、もうここのイチゴは咲いているものとして注意深く見て歩かなければならない。

因みに食用にされている栽培種のイチゴは、オランダイチゴが起原とされている。
オランダイチゴは17世紀に欧州に渡ったアメリカ原産のバージニアイチゴと、18世紀前期に欧州に渡ったチリイチゴの交雑によって、18世紀末頃オランダで作られたと言われる。原種のどちらもヤブヘビイチゴとは似ていない。
日本には江戸時代末期にオランダ人によって長崎に伝えられたとされるが、このものは食用として普及することはなく、明治時代になって、欧米から様々輸入されたものが食用の栽培原種となっている。
日本で初めて育成栽培が行われたのは19世紀中ごろで、フランスから輸入した品種を基に複羽博士によって行われたので、品種は「福羽」と呼ばれる。


 

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