<参考36> 河川敷の夏から秋にかけての草木と花
【クマツヅラ科】 クサギ属 : クサギ
この特集がメインとしている範囲で、勝手に木本としてのパイオニア植物の御三家を決めているが、それはアカメガシワ、クサギ、ヌルデの三種。
(左の写真、上から5枚は2013年8月9日の撮影。)
高水敷の大半を占める”河川敷”は、緑地やグランドとしての利用を図るために整備されたところのことで、芝やツメクサ、セイヨウタンポポなどの小型の草花が生え、堤防法面にはセイバンモロコシなどの大型種が増える場合もあるが、定期的に除草が行われるので荒れ地の様相にはならない。
花は花弁同様に白い4本のオシベと1本のメシベを長く伸ばす。ただしこの5本が共に真直ぐに突き出しているところは見たことが無い。先端に黒っぽい色の葯を付けたオシベが突き出している花を見ることが多いが、この時メシベの方はこれらのオシベに背けるように、大きく曲がって下を向いている。
左の写真6枚は2015年7月25日の撮影。花が木の全体を被っている株は3本あり、下の方にも十分花があって、この年は実がまとまった数で見られるのではないかと期待された。
過去のことは知らないが、2013年から2014年に掛けてみると、ひどく蟲にやられていて半分以上の木はほとんど枯れたような状態。まともな木は丈が高く、枯れた木は丈は低く、下から新しい枝を出し直して生き返ったような姿のものも幾つか。これらの木が独立しているのか、根で繋がっているのかは不明だが、完全に枯れてしまったように見える木が出直せるのは、横の木と繋がっているためかとも思わせる。
ヌルデの方は密集してあり、その本数が年々増しているように見えるので、繋がっていることは想像に難くないが、ここのクサギの方は、隣接しているものばかりではなく、若干間を明けているような感じの場所もあって、すべて繋がっているのかどうかは微妙。
(クサギは最近の図鑑ではシソ科に編入されているものが散見されるようになったが、今でもクマツヅラ科としている方が多いので、ここではクマツヅラ科のままにしてある。)
汽水域の河身改修は長期間に亘る極めて大掛かりなもので、打ち続く改変を経て、今ではもう近代までの川の原形を偲ぶよすがは全く残されていない。
一方国交省が敢えて手を入れずに残している水路沿いの部分は、荒れ地として藪状化しているが、そのような中に自然に割り込んでくる木本がパイオニア樹種だ。公園や庭木として植樹されるような木とは当然異なるが、森林を形成するような樹とも雰囲気は違う。
こうした状況の中にあって、御三家はこれらの高木とは明らかに違う。元々植樹されるような樹種ではないが、特にクサギとヌルデは共に近辺では他の場所では見られず、限られた存在のままで増えていくようなこともない。他の木本種がやってこれないような攪乱後の厳しい環境に、敢えて存在環境を見出し、いつかの時点で草藪の中に埋もれ、やがて芽生えて今日に至っているのだろう。
花は蕾の時は5稜が先で閉じた袋状をしている。着色が次第に濃く赤くなると、やがて白い花が同じような形で、赤い袋の先を割いて突き出てくる。白い花が出てしまうと蕾時代の袋はまた窄んで、今度は軸を抱いて愕となる。伸び出した花は少し軸部を持った先に、大きな5弁花を反り返り気味になるまで開く。
一方メシベが真っ直ぐに突き出すような時期には、逆にオシベは折れ曲がって下を向くようになる。オシベは更に付け根の方に丸まってしまうものも多く見掛けるので、多分先にオシベが伸び、そののち交代してメシベが伸びるようになり、役目を終えたオシベは丸まってしまうのではないか。
両性花で見られる場合の一般の「雄性先熟」というのは、先にオシベが伸びて花粉を飛ばし、オシベが退いたのちにメシベが伸びてきて先端に受粉機構が開口するというもので、この特集の中では、タチアオイやゲンノショウコの項に載せているような手順を採る。
然しクサギの場合には、下の2014年の写真で分かり易いように、花弁は下向きにまで開いて邪魔にならず、隣合った同士はオシベを伸ばしたりメシベを延ばしたりしているので、それらが接近しごく近くにあるケースも稀ではない。
受粉に成功していれば、花後の袋は子房を育てている筈であるが、受粉に失敗していても、一旦はこの状態に戻るので、ただこの姿を見ただけでは俄かには判断できない。
図鑑などを見ると、咲いた花が皆実になって鈴生りの写真を見る。植物園のような恵まれた環境で撮影されたものと思うが、野生状態では中々そうはいかないと思い知った後だけに、2014年は、今年こそは実を見てみたいとの気持ちを強く持った。
花は木の上の方に多く咲き、見上げるような場所なので、観察は容易では無いが、実を探すのは猶更大変という感じ。図鑑に低木などと記述してある場合もあるが、本当に低木ならなぁ・・・と思ってしまう。
実は未だ熟していないが、すでに袋は僅かに開き掛かって中が窺われる状態になっていた。これを見付けた時は嬉しかったが、果たしてこれが完成にまで至るのか半信半疑だった。
実際この実はその内見付からなくなってしまった。ものにならず脱落してしまったのか、鳥などに食べられてしまったのか仔細は不明のままだったが、この貴重な一つを失ったことで今年もダメなのかという思いが強くなった。
態勢が悪いことに変わりはなかったが、あっち向きやこっち向きと色々な方向から、またフラッシュを焚いてみるなど、色々やってみた結果が左の写真である。向きが違うので昨日の対象とは違うもののようにも見えるが、同じ実を撮ったものである。
所詮カメラはパーソナルデジカメだし、そもそも実物を目の前でマジマジと見ていないので、実際どんな色なのかイマイチ分からないままだが、赤い袋がガクらしく星形に開き、その中心に青味掛かった黒色の実がある、この写真が撮れたことで、このクサギの項も形になったので、つくづく良かったというのが偽らざる心境だった。
やがて後期には雌性期に換わり、メシベが長く直立する一方、役割を終えたオシベは下を向き、そのうちに丸まってしまう。(写真の下2枚は雌性期の例)
ハルガヤの花穂では、性転換は小花の各自で適宜行われ、近隣との整合性は図られていない。トウオオバコでも複数の花茎は一気に全てが出ることはなく、順次新しいものが出ることによって、多様な段階にある花穂が並ぶことになり、新しい花穂でメシベを先に出しても、そこに隣の先行して雄性期に入っている花穂から花粉が付けられる可能性は高い。
植物はクローン方式もいとわない繁栄第一主義で、そこに有性生殖を組み込むが、有性生殖法に於いても、結実することが最優先され、しかる上で、可能な限り他株と交配し、実生の遺伝子が収斂していくことなく、多様な可能性を含んでいくというような順位で、生き残るための工夫が為されているのではないかと考えさせる。
この年は日中の最高気温が35度を超える猛暑日が8日続くなど、何十年振りとか初めてとかいう記録的な暑さだったが、8月下旬に入ると一転して記録的な低温に変わった。日中の最高気温が20度をやっと超える程度の10月中旬頃の気温が1週間ほど続き、この気温の急落に適応出来ず、すっかり体調をおかしくしてしまい、3週間近くブランクが生じて、次に見に行った時には、果実は一つが残っているだけだった。
左の写真は9月11日に撮ったものだが、これまでの間に実が出来ていたのか、結局例年通り出来なかったのかの確認は出来ない。然しとにかく、この年もこの一つしか実を撮れなかったという厳然たる事実に間違いはない。