<参考36>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花


     【ナス科】 クコ属 : クコ

 
クコは中国や東アジアに分布する落葉低木。原産地は中国で日本には平安時代頃に渡来し、不老長寿に効くとされて、支配階級の庭園などで栽培されてきたという。
今や雑草帯の至る所で見るようになっているクコだが、多摩川の汽水域でも、堤防法面、散策路沿いの荒地際など、あちこちでよく見られる。ただし、堤防法面では春に密集して出ていたりするものの、除草が行われるまでのことで、花や実が見られるのは水路側の刈られない場所にあるものである。

左の写真は春の緑濃い若い時期の株の一例として、2013年4月11日に多摩川大橋上手の高水敷で撮ったものを載せた。ドウダンツツジのある少し上手の散策路脇で、このような集団はこの時期にはあちこちで見られる。
多摩川大橋下手では例えば、水路岸辺に非常時船着場がある場所の堤防側、私有地のになって倉庫のようなバラックが並んでいる裏手の堤防法面に、クコが一面びっしりと生え出ているのを見たことがある。

左の写真、ここからの6枚は2013年10月6日の撮影。場所は多摩川緑地の水路側を通る散策路脇の土手側。この土手はかつて多摩川緑地がゴルフ場だった時代に、水路の転がり落ちないように球止め目的で作られたと思われるもので、枝垂柳や雲竜柳などが植えられていたようだが、その後この土手の上にHLが点々と小屋を建てるようになって、植物も木本ではヤナギ類の他、トウネズミモチ、オニグルミ、マサキ、アカメガシワなどの高木に加え、カキノキやモモ、ピラカンサ、更にはアジサイやランタナなどの中低木も植えられ、草本類もオシロイバナ、ツユクサ、チチコグサなど、園芸種流れのものから野生の外来種まで多様なものが見られる。

岸辺の散策路は土手の下で、河川敷との境にあり、散策路の河川敷の側は大田区が芝刈機を入れているが、土手側は除草されないので、荒れ地に近い状況になっていて、そんな中にヘクソカズラに混じるようなところでクコも散見される。
左の1枚は撓まずに伸びている点で、どちらかと言えば珍しい例になるが、左側の茎はアレチウリで、咲いている花の首を絞めるような恰好で巻き付いてきている。

左の写真で見えている球状体はヘクソカズラの若い果実である。ヘクソカズラやアレチウリなど、クコは木本で茎が堅いため、蔓草が巻き付いていることが多い。クコの方に何らか利点があるようには思えないので、共生ではなく単にたかられているだけだろう。

左の写真では黒褐色に見えている2ヶ所は昆虫で、花の時期の葉は本来楕円形に近い長めの全縁葉だが、もうボロボロに喰われて全く原形を留めていない。
クコは虫が集ったり、病気にやられたりしているのをよく見るが、不遇に陥っても枯れてしまった姿を見た記憶が無い。このしぶとさが生薬として用いられていることの原点に通じることかも知れない。

左の写真はクコの花のズーム。要素の数は5で、オシベは大きな黄褐色の葯を持ち、オシベの中にメシベが1本混じっている。花柱の先は丸く膨らみ緑色っぽい色をしている。これらの付け根の周囲に黒っぽい筋状が見えるが、これは花弁の紋様で、その奥には短い毛が生えている。
写真の左下に半分見えている縦長の果実はクコの若い実で、右上の球状のものはヘクソカズラの実である。

中央の花の後ろに見える茎が薄茶色しているのは、クコが草本でなく木本であるという面目躍如というところだ。この茎には数本の細い稜が軸に平行して走っている。

メシベの長さは長短のケースが観察され、折れ曲がって横を向いている場合もある。この花では既に幾つかの葯が弾けて花粉が花弁に散っているが、花柱は必ずしもこれを避けるような位置には無く、自家受粉を避ける工夫があるか否かは分からない。

花は正面から撮ることに偏っていて、萼の部分まではっきり撮れている写真は撮り損なっているが、この写真で幾らか分かるように萼は紡錘形で、花冠の形は長がっぽそい先に花弁が水平に開いたロート型をしている。

ここからの2枚は翌年2014年9月28日の撮影で、場所は前年とほゞ同じ多摩川緑地奥の土手下の散策路沿い。
この時には花弁が赤紫色でなく、薄い黄褐色の花が結構多く目立った。普段はそれほど見掛けないが、異常というほど珍しいものではなく、普通に散見される。これが何らかの問題があってこうなってしまったのか、本来の種の中に自然に表れる劣性遺伝子によるものかは分からないが、同じ株の中で双方の色の花が咲いているので奇妙に感じることはある。

この木では太い幹に僅かに稜のあることが見て取れる。

この脱色したような色の花も、同じ鮮紅色の果実になるのかどうかは確認できていない。
花弁の合わせ部にある筋紋様がはっきり分かり、更にオシベの奥にある短い毛も僅かに見えている。花柱は折れ曲がりながらも、かなり突き出てた位置になっていて、葯は既に破裂済のようだ。

ここから果実の写真を載せる。最初の4枚の写真は、2013年8月9日の撮影。上の花の写真で、2枚目からの6枚は同じ年の10月6日の撮影なので、花と実が逆転している。この土手下の散策路は上手の多摩川大橋まで続いているが、多摩川緑地のグランドがある区域を周回するように、両端に堤防下の通路と連絡する路がある部分だけに土手があり、その先では護岸の改修によって状況が変わっている。この周回路の土手側の部分になる、下手のJR橋梁から上手の瓢箪池までは1km近くの距離があり、その間に濃淡はあるもののクコの木が点々と散在してあり、どこも土壌などの環境条件は良いとは言えないが、虫に喰われたり、病気で葉がひどく白化してしまったりと条件は個々に様々で、花期や果実の時期はマチマチで統一した感じは無い。
一部の書き物で、クコは春と秋の年2回開花結実するという記述を見たことがある。一つの株が年2回そうするのか、春型と夏型の2種があるということなのかまでは書いてなかったが、もしそれが本当なら、この写真の実は春型の花による結実で、10〜11月前後に見られる花との逆転ではないということになる。花や果実を撮っているのはこの約1キロの間には違いないが、それぞれはどこの株だったかというような細部までは把握していないので、目下のところ年2回ということの実体は分かっていない。

クコの花期は群落によるかは不明ながら、漫然とした感覚では晩秋に至るまで相当長いと感じる。然し8月初旬に赤い果実が見られるというのは相当早いというのが実感だ。秋にはクコの他、(テリハ)ノイバラやピラカンサも小さな鮮やかな赤い実を付ける。この散策路沿いでも上手の方にノイバラやピラカンサがあるが、これらのバラ科の果実は球形に近く、クコのようにやゝ長球掛かった形とは区別できる。(但し、クコの実の長球の度合いは一定ではなく、株により実は球形に近いものもや、先が尖っているケースなど結構範囲が広い。)

8月ではまだバラ科の実は緑色で赤くはなっていないが、左の写真4枚は、クコの場合には、この時期でも既に実が赤く熟したものが見られる場合があるという例である。

ノイバラは匍匐する傾向を見せるものがあるが、テリハノイバラの場合は直立する場合が多く、ピラカンサの場合には木のイメージが一層明瞭となる。一方クコは木本ではあるが、直立するケースは稀で、撓んだり、法面に沿うように枝垂れたりするものがよく見られる。

2013年8月7日に撮った写真の中に、偶然果実の中の種子が写っているものがあった。果実の表皮が剥がれた理由は不明だが、種子が生前と保たれている様子からは、果実がここまで熟してきて後の何らかの出来事があったためと思われる。

左の1枚は、上の表皮が剥がれて種子が露出した果実を拡大したもの。種子の色は日焼けしたようにも見えるが、こんな風になっても分離して脱落してしまわないのは驚異的だ。何か結合する仕組みがあるのだろう。
ただ種子が扁平な形をして詰め込まれていて、一つの実に含まれる種子の数は数十個に上るようだ、という程度のことは分かる。(「枸杞子」として生薬にされる場合には、果実は剥いて種子を出してしまうのではなく、袋のままの果実を採集しそのまま乾燥して用いる。)

ここからの3枚は、2013年11月16日の撮影。場所は同じ一帯の中だが、この辺りの木は比較的大きく、幹が太く直立気味になっていて、赤い実がぶら下がる様は見応えがある。ただ一群のものを仔細に見れば、葉が白化して鑑賞に耐えないほど汚いものもあり、又まだ赤くなっておらず緑色をしている実が多い株も見られる。

もうこの時期ではテリハノイバラもピラカンサも赤く色付いているので、遠くからでは見間違えることもあるが、この界隈ではクコが主流で、瓢箪池から上手側の植生護岸の雑草部ではテリハノイバラやピラカンサが主となり、逆にクコは殆ど見られなくなる。


ここでは未だ花の痕跡が残っている。枯れ間際でということではなく、もともと花弁が薄茶褐色系の色の花だろう。少し小さく、球形で濃い茶色をしている実はヘクソカズラの実で、ヘクソカズラがクコの木に巻き付いている場合が多く、このような写真は結構普通に撮られる。

左の写真1枚は、同じ一帯で2013年11月30日の撮影。

クコの実は食用になり、赤が鮮やかなことから、杏仁豆腐の上に添えられたものがよく見られる。(杏仁豆腐は元は中国の薬膳料理だったらしいが、日本に導入されてからは専らスイーツのようになり、プリンやミツマメのようなものと同類の扱いになっている。)

ここからの3枚は同じ一帯で、2013年12月21日の撮影。

クコの実は現代では、料理で飾りのようにトッピングとして用いられ、若葉も食用にされたりお茶になったりするが、クコ自身は漢方では生薬の一つとして古くから知られていた。中国本草学の古典「神農本草経」に(強壮薬として)載っているという。(『神農本草経』は2〜3世紀の頃に書かれた中国最古の薬物書で、1年の日数に当たる365種の薬物を収載する。)
漢方薬の素材としてのクコは、果実は「枸杞子」、葉は「枸杞葉」、根は「地骨皮」と呼ばれる。近年の中医学では、「枸杞子」は肝庇護薬や視力減退などに、「地骨皮」は主として解熱剤として効能があるとされている。
クコの実はビタミン、カロティン、ポリフェノール、ミネラルなど栄養素が豊富に含まれていて、現代ではサプリメント(ゴジベリー)になったり、美白作用があるとして化粧品に配合されたりもしている。「枸杞」は眼の老化予防に効く、というのが近年よく聞く宣伝文句だが、どの程度真実かは実際に呑んでみなければ分からない。

クコと同じように生薬として使われてきた履歴のあるイタドリが、薬事法に引っ掛かってサプリメントの原料として認可されず、一方のクコは食材として何の制約も無く、サプリメントの原料にもなっている。このことは裏を返せば、クコには医薬品として使われるほどの薬効が無く、精々健康食品止まりという実体を反映してのことと思わせなくもないが・・・。双方の扱われ方の違いを好意的に判断すれば、副作用の有無或は強弱に関わることとなのかも知れない。

 
12月下旬というこの時期は、クコの果実にとってはもう末期に当たる。残っている実はあくまで鮮紅色で綺麗だが、同時に既に果実が無く、紡錘形で先が5裂した形の萼だけが残っているものも結構見かけるようになる。

ヘクソカズラの花期はクコより早い夏のものも多く、一方実の時期はクコとほゞ同時期だが、花とは逆にクコより若干遅いものもある。
ヘクソカズラの実は初め緑色だが、やがて薄いオレンジ色に近いベージュ色となり、その後熟していくに従って、次第に(幾らか個体差はあるようだが)色濃い褐色に変わっていく。クコの方はそれほどの変化は無く、緑色の若い実は熟して鮮紅色になり最後まで鮮やかだ。

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