<参考36> 河川敷の春から初夏にかけての草木と花
【ナス科】 クコ属 : クコ
左の写真は春の緑濃い若い時期の株の一例として、2013年4月11日に多摩川大橋上手の高水敷で撮ったものを載せた。ドウダンツツジのある少し上手の散策路脇で、このような集団はこの時期にはあちこちで見られる。
岸辺の散策路は土手の下で、河川敷との境にあり、散策路の河川敷の側は大田区が芝刈機を入れているが、土手側は除草されないので、荒れ地に近い状況になっていて、そんな中にヘクソカズラに混じるようなところでクコも散見される。
花は正面から撮ることに偏っていて、萼の部分まではっきり撮れている写真は撮り損なっているが、この写真で幾らか分かるように萼は紡錘形で、花冠の形は長がっぽそい先に花弁が水平に開いたロート型をしている。
この木では太い幹に僅かに稜のあることが見て取れる。
8月ではまだバラ科の実は緑色で赤くはなっていないが、左の写真4枚は、クコの場合には、この時期でも既に実が赤く熟したものが見られる場合があるという例である。
ノイバラは匍匐する傾向を見せるものがあるが、テリハノイバラの場合は直立する場合が多く、ピラカンサの場合には木のイメージが一層明瞭となる。一方クコは木本ではあるが、直立するケースは稀で、撓んだり、法面に沿うように枝垂れたりするものがよく見られる。
もうこの時期ではテリハノイバラもピラカンサも赤く色付いているので、遠くからでは見間違えることもあるが、この界隈ではクコが主流で、瓢箪池から上手側の植生護岸の雑草部ではテリハノイバラやピラカンサが主となり、逆にクコは殆ど見られなくなる。
クコの実は食用になり、赤が鮮やかなことから、杏仁豆腐の上に添えられたものがよく見られる。(杏仁豆腐は元は中国の薬膳料理だったらしいが、日本に導入されてからは専らスイーツのようになり、プリンやミツマメのようなものと同類の扱いになっている。)
クコの実は現代では、料理で飾りのようにトッピングとして用いられ、若葉も食用にされたりお茶になったりするが、クコ自身は漢方では生薬の一つとして古くから知られていた。中国本草学の古典「神農本草経」に(強壮薬として)載っているという。(『神農本草経』は2〜3世紀の頃に書かれた中国最古の薬物書で、1年の日数に当たる365種の薬物を収載する。)
今や雑草帯の至る所で見るようになっているクコだが、多摩川の汽水域でも、堤防法面、散策路沿いの荒地際など、あちこちでよく見られる。ただし、堤防法面では春に密集して出ていたりするものの、除草が行われるまでのことで、花や実が見られるのは水路側の刈られない場所にあるものである。
多摩川大橋下手では例えば、水路岸辺に非常時船着場がある場所の堤防側、私有地のになって倉庫のようなバラックが並んでいる裏手の堤防法面に、クコが一面びっしりと生え出ているのを見たことがある。
左の1枚は撓まずに伸びている点で、どちらかと言えば珍しい例になるが、左側の茎はアレチウリで、咲いている花の首を絞めるような恰好で巻き付いてきている。
クコは虫が集ったり、病気にやられたりしているのをよく見るが、不遇に陥っても枯れてしまった姿を見た記憶が無い。このしぶとさが生薬として用いられていることの原点に通じることかも知れない。
写真の左下に半分見えている縦長の果実はクコの若い実で、右上の球状のものはヘクソカズラの実である。
この時には花弁が赤紫色でなく、薄い黄褐色の花が結構多く目立った。普段はそれほど見掛けないが、異常というほど珍しいものではなく、普通に散見される。これが何らかの問題があってこうなってしまったのか、本来の種の中に自然に表れる劣性遺伝子によるものかは分からないが、同じ株の中で双方の色の花が咲いているので奇妙に感じることはある。
花弁の合わせ部にある筋紋様がはっきり分かり、更にオシベの奥にある短い毛も僅かに見えている。花柱は折れ曲がりながらも、かなり突き出てた位置になっていて、葯は既に破裂済のようだ。
一部の書き物で、クコは春と秋の年2回開花結実するという記述を見たことがある。一つの株が年2回そうするのか、春型と夏型の2種があるということなのかまでは書いてなかったが、もしそれが本当なら、この写真の実は春型の花による結実で、10〜11月前後に見られる花との逆転ではないということになる。花や果実を撮っているのはこの約1キロの間には違いないが、それぞれはどこの株だったかというような細部までは把握していないので、目下のところ年2回ということの実体は分かっていない。
ただ種子が扁平な形をして詰め込まれていて、一つの実に含まれる種子の数は数十個に上るようだ、という程度のことは分かる。(「枸杞子」として生薬にされる場合には、果実は剥いて種子を出してしまうのではなく、袋のままの果実を採集しそのまま乾燥して用いる。)
漢方薬の素材としてのクコは、果実は「枸杞子」、葉は「枸杞葉」、根は「地骨皮」と呼ばれる。近年の中医学では、「枸杞子」は肝庇護薬や視力減退などに、「地骨皮」は主として解熱剤として効能があるとされている。
クコの実はビタミン、カロティン、ポリフェノール、ミネラルなど栄養素が豊富に含まれていて、現代ではサプリメント(ゴジベリー)になったり、美白作用があるとして化粧品に配合されたりもしている。「枸杞」は眼の老化予防に効く、というのが近年よく聞く宣伝文句だが、どの程度真実かは実際に呑んでみなければ分からない。
12月下旬というこの時期は、クコの果実にとってはもう末期に当たる。残っている実はあくまで鮮紅色で綺麗だが、同時に既に果実が無く、紡錘形で先が5裂した形の萼だけが残っているものも結構見かけるようになる。
ヘクソカズラの実は初め緑色だが、やがて薄いオレンジ色に近いベージュ色となり、その後熟していくに従って、次第に(幾らか個体差はあるようだが)色濃い褐色に変わっていく。クコの方はそれほどの変化は無く、緑色の若い実は熟して鮮紅色になり最後まで鮮やかだ。