<参考36>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花


     【ナス科】  ナス属 : ワルナスビ・アメリカイヌホオズキ

 

ワルナスビはアメリカ原産の外来種でナス科の多年草。和名は牧野富太郎博士によるらしいが、おそらく繁殖力が強くて根絶しにくく、農耕にとって迷惑な雑草であることからそう付けられたものだろう。
この界隈でも大体同じ場所に出現するが、出る場所が堤防周辺であることが多く、花を撮ると程なくして除草が入り、果実を撮る前に刈られてしまう。果実は球形らしいが、いまだに果実の写真は撮れてない。極めて鋭い棘を全身に纏うほか、果実も食べた家畜が死ぬと言われるほどの有毒で、そうしたこともワルという名前の中に含まれているだろう。
様々悪弊のある本種だが、特定外来生物には指定されておらず、要注意外来生物の指定に留まっている。(特定外来生物は人畜によほど有害ということになれば考慮されるだろうが、主として重要視されている要素は、生態系に対する攪乱の度合いで、在来種が消滅してしまう恐れがあるなどの場合、その対称外来種が指定されるケースが多いようである。)

写真は上の2枚が2009年6月下旬に右岸の殿町で撮ったもの、次の3枚は2013年7月下旬にガス橋下手の荒れ地で、藪中の一部ではあるが川下側に寄って、ヒルガオなどが多く見られた比較的穏やかな部分で撮った。その下の2枚は同じ2013年の9月下旬と10月頭で、安養寺前辺りの堤防法面の中段から法尻に寄った辺り。
実際の写真はこれを狙って撮影したことは一度もなく、いずれも何かのついでに発見して撮っている。その撮影時期が夏を跨いでいるのは、他の多くの植物の花の時期と異なり、奇異のようにも感じるが、国立環境研究所の「侵入生物データベース」には繁殖生態について「種子繁殖・地下茎による栄養繁殖を行う。花は両性花。地下茎の断片による繁殖力が強く、1cm以下の断片からも再生可能。繁殖期:6〜9月」と書かれており、実際花期は夏を跨ぐ期間になっているらしい。

悪名高いワルナスビのことを色々知ったので、次の年は何とかチャレンジして、「悪魔のトマト」と呼ばれるという果実を撮影してみたいと思うようになった。




左岸の六郷橋と多摩川大橋の中間辺り、川裏に安養寺がある前の堤防の川表の法面にかなりまとまった数のワルナスビがある。ここで見るまでは、右岸の中瀬や殿町の堤防天端の角に近い辺りに散発的にあるものを見ていたが、いずれも星形の花弁は紫色で、ガス橋下手の荒れ地にあったのも紫色だったので、ワルナスビの花は花弁が紫色をしているものと思っていた。
ところがここにあるものは花弁が白色で、近くに寄ってみるまではワルナスビとは思わず、何の花だろうと思いながら近付いたものである。
「侵入生物データベース」には単に「花が白色のものはシロバナワルナスビと呼ばれる」と書いてあるだけなので、シロバナが特に珍しいというようなものではないようだ。


ここからの4枚は2014年の6月中旬で、場所は前年と同じ安養寺前の堤防法面の法尻に寄った辺り。シロバナワルナスビがいつの間にかこの堤防法面に地下茎を張り巡らしたとみえ、例年まとまった範囲にかなりの数の花を咲かせる。
2014年は、今年こそは「悪魔のトマト」を撮ってやろうと構えていたが、待てど暮らせど花は一向に結実する気配を見せず、いつまで経っても花を咲かせているばかりだった。
やがて8月になってしまい、もういつ除草が行われてもおかしくないという状況になり、刈られる前の最後の状態を見ておこうと思って行ってみたところ、いつしか地上部はすっかり枯れて、痕跡も殆ど残っていないというような状況になっていた。

ワルナスビは北米原産の帰化植物。明治時代に千葉の牧場で発見されたらしいが、今では全国に広がっている。
この界隈ではそれほど見掛けることはないが、かつては単発で見掛けるのが普通だったが、この安養寺前の法面では、いつのまにかかなりの数になっている。ワルナスビは種子で増えるほか、根茎の切れ端からも再生すると言われていて、無性生殖(栄養繁殖)能力が高い。
堤防の除草に使われているロータリー方式の除草車は、草を引き千切り、土を浅く掘り返してかき混ぜていくような感じの除草になり、ワルナスビのような横走根が発達した草は、クローンの生成を助長され、一気にその生育範囲を拡大していくことになる。
2014年に当地のワルナスビが何故結実しなかったのかは分からないが、両性花なので、自家受粉しないものとすれば、風媒花にせよ虫媒花にせよ、近辺に他のワルナスビが無かったということしか考え付かない。実際この年は他所でワルナスビを見ることは無かったが、それにしても刈られる前に何故枯れてしまったのか・・・?

一般論として、根茎などによる栄養繁殖の能力が高い種類では、有性生殖の機能が退化していく傾向にあるとは言えないのだろうか。
ワルナスビと似たような花にアメリカイヌホウズキがあり、花は小さいが実は結構大きく、こちらは盛んに実を作っていた。アメリカイヌホウズキの実はワルナスビの「悪魔のトマト」というものとは色が違い、雰囲気もトマトを連想させるような果実ではない。共に実の形は球形だが、アメリカイヌホウズキでは若い緑色の実は直に熟して黒紫色となる。一方ワルナスビの場合には、若いトマトのような実は、秋から冬に掛けてゆっくりと期間を要し、熟すと黄橙色になる。

ワルナスビの花をよく見ると、バナナのようなオシベの中心部から、メシベの花柱が伸びて柱頭が突き出て見えるものと、メシベの花柱が全く見えないものがある。これがどういう意味を持っているのかは聞いたことが無い。

もし刈られる直前にあの状況を見ていなければ、やはり堤防では刈られてしまうので実を見るところまでは無理だな、と単純に思っていたことだろう。
河川敷では無駄な抵抗とは思うが、アレチウリやオニアザミなどについて誰かが駆除を行ったと思われる状況に出会うことがある。善意でしていることだと思うが、河川事務所が管理方針として、荒れるがままに放置すると決めている以上、住民レベルでジタバタしても大勢に影響を及ぼすことにはなりにくい。
そんなことをフト思い出し、もしかしたら除草剤が使われた可能性があると思った。ワルナスビは効果のある除草剤が少なく、防除することがとても難しい雑草の一つとされている。ただ場所が牧場や畑ということになれば、人畜無害な除草剤に限られるが、このような場所であれば、かなり強力な薬品を使うことにも躊躇は無いかも知れない。(実際にはこの近くにペットのヤギを飼っていて、川に食事をさせに来ている例があるが・・・)
あの跡地の様子は、枯れた草の痕跡すら確認できないほどの状況で、ただ枯れたにしては不自然にも思われる。もしかしたら薬品で焼かれたような跡だった可能性もある。

 


 
アメリカイヌホウズキは昭和の時代に渡来したと考えられている新しい外来種で、日本に自生しているイヌホウズキとの区別は相当難しいとされる。















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