<参考36>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花


     【ユリ科】  ネギ属 : ニラ

 
河川敷では意外に多くニラを目にすると聞いてはいたが、実際には中々お目にかかることはなく、2014年にはやっと一カ所、JR六郷橋梁から上手の堤防、緑地管理事務所のある場所から上手側の川裏になる側帯のような場所。
ここは都営住宅の並ぶ裏手になり、イモカタバミが一面に広がる場所で、初秋には例年タマスダレが出てくるがニラは珍しい。場所が場所だけに栽培品由来のものかも知れないが、ニラはもともと野生種を野菜に改良した種という訳ではなく、東アジアの大陸や日本に自生していたネギ属の一種が、古くから食用にも栽培されるようになったもので、河川敷のニラもその起原が野化したものだったとしても、一旦野に出てしまえば、栽培種も野生種も区別は無い。
(日本では古代にはニラではなくミラと呼ばれていたが、次第に呼称がニラに変わってきたとされている。)

これを撮影したのは2014年9月18日で、時期的に遅いとは思わないが、ここでは原因は良く分からなかったが、葉はすっかりへたってしまった様子で、ニラ特有の見慣れたハリは無く、地面に這いつくばるように広がっていた。
見過ごしてもおかしくない状態ではあったが、その割りに花はしっかりしていて、ニラの花がどういうものであるかということは十分に分かった。
セリ科に似た散形花序で、6弁花のように見える花によくあるように、3枚は花弁だが間に挟まる3枚は苞である。オシベは6本で中央にメシベが立つ。子房は鮮やかな緑色で、3室が合体した形をしている。





2015年は前年とは異なり、9月中旬には堤防法面のあちこちにニラが立つ姿が見られた。特に多摩川緑地から多摩川大橋までの堤防法面は、除草されてから程無い時期で、他の草種があまり伸びてきていない中に、丈高く白い花は一際目立つ存在だった。
左の写真から下への5枚は、2015年9月11日管理事務所に近い堤防の川裏側の側帯で撮った。

蕾は3角形をしている。

この写真は偶然に撮ったもので、撮っている時はこんなものを撮っているとは気が付かなかった。もしこれが蜘蛛の巣が掛かった状態とかいうことでなく、正常な過程を捉えたものとすればかなり貴重な記録だ。上の写真では蕾は散形花序の花枝が凝集したような形に見えるので、もしここから先の開花過程を見てしまうと、左の写真にあるようなことは分からなかったと思われる。
これは展開される前の蕾が、薄い皮膜のようなもので包まれている様子が捉えられたものである。つまり蕾は小さな時点から散形花序に展開されている訳ではなく、一緒くたに包まれた状態でそこそこの大きさまで成長し、その後開花前の時点で皮膜が解かれ蕾が展開されるようになっていると推測される。(写真は縮小している関係で分かり難くなっているが、下の方の黒い斑点のようなものは水滴が写っているもの、上の方の皮膜が裂けかかっているように見える部分は、後から写真だけを見ているので、自然な脱皮のようなことが始まっているところだったのかどうかは不明。)

オシベの進行は3本づつ時間差を付けて2段階で行われるというような記述を見ることがあるが、この写真を見る限りでは葯の残り方は不順で、3本ずつが前後してというような整然とした機序があるようには伺われない。

蟲を撮るのはあまり好みではないが、この時は蟲の数が多く、追ってもなかなか散ってくれなかったので、仕方なくいっそ蟲を撮ってみようという気で撮った。このように撮ってみても、追っても中々離れないほどの蜜が何処にあるのか、どのように吸っているのかなどのことは結局は良く分からない。

ここから下の5枚は、2015年9月12日と14日に多摩川緑地周辺の堤防法面で撮った。

今まさに開かんとする花を見ると、茶色い大きな葯を載せていることが分かる。これを見ていないと、既に花粉を飛ばしてしまったあとの痕跡もそこそこの大きさなので、それが葯かと思ってしまうかも知れない。




左の2枚は2015年9月20日に、この年の最初の5枚と同じ管理事務所に近い堤防の川裏側の側帯で撮った。前年撮った場所と似たような位置だが、この年は茎や葉が起立した姿で、この頃になると、林立と表現するほど大袈裟ではないが、花序を載せた茎はかなりの本数になっていた。


 


 

     【ユリ科】 ツルボ属 : ツルボ

 
2015年の初秋は例年とは一寸違って、タマスダレ、ニラ、ヒガンバナなどの鱗茎ものが堤防周辺に多く見られた。そうした流れに乗ってか、この辺りでは初めてツルボを見ることになった。
最初は9月14日で、多摩川大橋下手の左岸、スーパー堤防のはしりとなったトミンタワーがある前辺りの堤防法面だった。この時期にピンクとか薄紫の花は見慣れないので、何だろうと思って近づいて撮ったのが左の2枚の写真だ。


初めて見た9月14日に撮ったズームが左の2枚。ツルボのことは知らなかったので、何科の植物だろうかと考えてみたが、似たものは思い付かず何の可能性も分からなかった。
もう薄暗くなりかかっていた時刻だったので、適当に切り上げたが、一カ所しかないのではどうかな・・・という気持ちだった。


ところが帰る途中、川裏に安養寺がある真正面の堤防法面(法尻に近い場所)で、この日2度目となるツルボを見付けた。こちらの方はトミンタワー前のものより丈は低かったが、花穂はしっかりと出来上がっていた。

ここでもズームを撮ったが、薄暗いということで、フラッシュを使ってみたりしたが、色合いが黄色掛かってしまう難点があり、仕方なくブレないように注意してフラッシュを使わずに撮ったものを載せた。暗い分で幾らか色濃く出ている感じがする。


2日後の16日も曇天で、出られたのは3時過ぎだったが、早めにツルボを確認したいという気持ちがあり見に行った。安養寺前のものは直ぐ見付けられたが、トミンタワーの方のものは見失ってしまい、ウロウロしたが結局見付けられなかった。
その代りもっと川下の、堤防上に川の一里塚がある少し下手の堤防法尻に、(下の方に載せている)本数の多い集団を見付けた。

花は分かり難いので、よくよくアップして、やっと6弁、オシベ6本と分かった。ツルボやヒガンバナは古くからあるのに、万葉集には一首も出てこないらしい。綺麗な花と思うが、食用になるようで、古代には鑑賞の対象ではなかったということか。

ツルボはニラと同じユリ科と分かったが(APGUとかVではユリ科ではなくキジカクシ科となるが、ユリ科としている図鑑も多いのでここではユリ科で扱った)、ユリ科は少なく、春ものはヤブカンゾウとハナニラで、2015年にハタケニラを追加しましたが、実は4月初めに六郷橋の先でムスカリを撮っていて、扱いに迷った。ムスカリは小さな紫色の房様の花で、同じキジカクシ科の欧州原産ものだが、こちらはヒヤシンスと並び、園芸種としての雰囲気が強い。
撮ったのも六郷橋を潜った下手で、堤防下の通路脇に花壇化している一帯の裏側で、誰かが特に植えたのものという雰囲気ではなかったが、土に混じってきたものが近くの場所にぽつぽつ出ていたのだと思う。 僅かではあったが、改修した南六郷の堤防法面でも見た。今回ツルボを載せたので、ムスカリは来春もどこかで見られるようなら載せてもいいかなと思った。

ツルボの系統は、園芸種の範疇ではシラーと呼ばれるようだ。、園芸種ではよくあることだが、シラーというのは学名の属名に由来している。ただ学名にはツルボ属をシラーでなくバルナディア属と表記するものがあり、古くは江戸時代の出島の3学者の真ん中の一人ツンベルクが、ツルボのことをバルナディア・ジャポニカと 命名している。ツンベルクはリンネの弟子なので、この学名は今でも生きていて、ウィキペディアでは学名にこれを採用している。
この属は世界には90種程度あるらしいが、日本はもちろん、東アジアにはツルボ一種しか無いそうで、ツンベルクにとっても珍しかったと見え、日本の固有種と思ったのではないだろうか。

ここから下の6枚は安養寺より鉄道の六郷橋梁群の方に近づいた堤防法尻で撮ったもの。この1枚はここを発見した9月16日の撮影だが、下の5枚は9月19日にシルバーウイークに入って、天気も良かったが、早めに出て明るいところで撮ったものである。

ここは法尻の平面部にかなりまとまって出ていることが分かったが、ここはあくまで除草の対象範囲なので、どこまで追いかけられるか、果実まで見られるかなどのことは何とも言えない。





ここからの3枚は同じ2015年の9月28日の撮影で、場所は上に載せた多摩川緑地の川下側の端に近い辺りの堤防法尻の株。
花が散ってから10日も経っていない時点で、子房が膨らみ始めたばかりの若い果実ということになる。この時までは花後の経緯を確認できたが、この時点でも既に株に勢いはなかった。やがて周囲のセイバンモロコシなどの繁茂に埋没し、この後ではすべての場所で株を見失い、果実が熟し、種子が出来たかどうかまでの様子は確認出来なかった。



(戻る)


   [参考集・目次]