<参考36>  河川敷の夏から秋にかけての草木と花


     【キンポウゲ科】  センニンソウ属 : センニンソウ

 
センニンソウの花期は普通8〜9月とされ、10月にはヒゲを擁した特徴的な果実を見せる。ところが、上から4枚目までの写真を撮ったのは2015年7月20日で、通常の花期とされる時期に比べればかなり早かった。
(これを撮った場所は空港敷地の沿川部で家からは遠く、この時まで多摩川緑地界隈では見たことが無かったので、この種はこの花の写真で終わり、この後を追跡できるという確信がなかっため、とりあえずは「春から夏」という方に載せいたが、同じ2015年の9月21日に5枚目以降に載せた写真を、多摩川大橋の上手の方で撮ることが出来たので、晴れて本来のこちらの「夏から秋」の方に、キンポウゲ科を新設して載せ換えることになった。)

2015年は位置基準で左岸の500メートル近辺で、500メートル程度の区間を幅を塀で囲って、共同溝云々という表題で何やら不明の工事が始まっていたため、この工事が更に零点側に移ってくれば、多摩川ではこの場所にしか自生が確認されていないハチジョウナが失われてしまうおそれがあったので、仕切られてしまう前に、川縁に入って、ハチジョウナを撮っておこうと思い、7月のうちに何度かここまで出掛けた。

このセンニンソウは空港沿岸部に2度目に行った7月20日の帰り掛けに、偶々1.1キロ辺りの堤防上の草地で撮った。

主要な目的であったハチジョウナは撮った後で、暑かったこともあって帰りを急いでいて、別に植物を探す程の余裕があった訳ではなかったが、護岸の法面の上面の角に当たるような場所で白い花がよく目立ち、ママコノシリヌグイと混じりあうような感じで低く広がっていたので、何だろうという気持ちで自転車を降りることにした。

センニンソウは蔓植物でキンポウゲ科の多年草だが、書き物によっては半木本などと記述してあるものを見掛ける。ここで見たものは、そのように茎が木質化したような太いものは見なかった。

センニンソウ属は総称してクレマチスと呼ばれ、原種は北半球に広範囲に分布し数百種あるという。日本ではクレマチスというと園芸種名として有名だが、世界的に人工交配種が作られていて、様々な色や形、大輪のものや八重咲きのものなど品種の数は千を超えると言われる。蔓性植物の園芸種というのはピンとこない気がするが、日本独特に鉢植えに仕立てられたものもあるらしい。(アレキサンドライトなどの園芸種を見ると、花はセンニンソウとは全く似ていない。)
 

センニンソウは見るからに十字花弁と見えるが、花弁のように見えるものは萼片で花弁はないのだという。オシベの多さが目につくが、この日は遅かったせいか、葯と思しきものは認められなかった。
センニンソウは外来種ではなく、東アジアが分布域で日本にも古くからあってボタンズルやカザグルマなどと呼ばれる幾つかのものがある。全草が毒草で、葉や茎の毒(プロトアネモニン)は民間薬として外用専用で利用される。葉を揉んで皮膚に貼ることで扁桃腺炎の治療に効果があるらしい。(漢方薬では根を乾燥させたものを威霊仙(いれいせん)と称し、神経痛やリウマチなどの治療用に生薬として用いるらしいが、この場合の主成分はサポニン。)

ここからの4枚は2015年9月21日の撮影。場所は多摩川大橋の上手で矢口橋との中間辺り。
(矢口ポンプ所の排水路が河川敷を分断する場所で、堤防下の管理道路が水路を跨ぐ橋を矢口橋という。)

2013年まで、ガス橋下手の左岸に続く荒地は、夏場には一面がクズに被われていた。ところが2014年には下手側から広がってきたアレチウリの勢力が優勢となり、ガス橋下手の荒地もほゞ一面がアレチウリに制圧される状況となった。クズの花は大きく派手で綺麗な花だが、密集した群生の中で咲いているので、外見からでは中々見付からないものである。

クズの花を撮るためには初秋に花を探さなければならないが、秋の草花が咲き始めるよりやゝ早いので、やっと猛暑から解放されたかなどと思っている頃で、つい忘れてしまう。クズはアレチウリと接触しているような場所では花を付けない。ガス橋下手の荒地でクズの花が撮れなくなってからは、多摩川大橋と矢口橋の中間辺りにあるクズの群落が貴重なポイントとなった。
このセンニンソウを撮ったのは同じ場所で、クズの群生した葉の上に出て咲いているものを見付けて撮った。肝心のクズの方は花は皆枯れていて、枯れてからかなり日が経っているような感じだったので、8月下旬の気温の急落時に枯れたのかもしれない。

この日、クズの花は殆ど撮れず、タチアオイの種子やカラムシ、オオブタクサの果実など、ついでに撮っているようなものばかりだったが、このセンニンソウは思いがけない収穫だった。オシベの先に膨らみがあり、葯と思しきものも認めることが出来、花柱の先にもメシベの伸び出しらしきものが見られる。

センニンソウの名前の由来は仙人草とも言われるが、それは果実に見られる長毛を仙人の顎鬚に見立てたものということらしい。センニンソウは7月に空港沿川部で見ている。花期が早かったので果実化も早いかも知れない。ここは空港ほど遠くはないので、忘れないようにして果実を撮っておきたいものだと思った。
(しかし折角思い出したので、忘れない内にということで、翌日早速空港敷地のセンニンソウを見に行くことにした。)

ここからは再び空港敷地沿川部のセンニンソウを掲載する。
撮影日は2015年9月22日。センニンソウはもう後は果実を撮るだけと思っていたが、この日に偶々遠出するチャンスがあって、時期的には未だ早いかとは思ったが、センニンソウも見てみようと思った。前回花を撮ったのが2か月も前で、花自身が時期的に早いと感じられたので、果実の生成も早い可能性もあるのではないかという期待があった。
前回は早かったので、先行した一部で花を見たようなことだったのだが、この日に行ってみて実は当地のセンニンソウの株数は相当大きいものだと知った。上手側の日航の慰霊碑のある場所から下手側の改修された船着場の手前まで、300メートル近くの距離があるが、この間水域に沿う小道の護岸縁は、ほゞセンニンソウとヤブガラシの混生群落で、センニンソウが延々と続いて見られる。

意外にも、一部では未だ花の姿も見られたが、それも末期で中心部の花柱が膨らみ始め、果実化への前兆と思われる気配が感じられた。周りには既に花弁(正確には萼片)を落とし、先の過程に踏み出している多くの若い果実の姿が認められ、そんな中に未だ花の姿を留めているものもあったというような状態だった。

オシベと花弁様の萼片を落とした後は左の写真のような格好になる。付け根にある膨らみは子房だろうが、花柱は存続し、むしろこの後伸びていって細かく裂け白毛化する。意味は不明だが痩果の撒布に役立てるものだろうか。

群集は護岸の頂上部に多かったものの、急角度の法面に沿って広がっている場所も散見され、一様に同じような色合いの果実が密集していた。






この日は偶々下手側(改修された船着場の上手辺り)から上手側に向って(慰霊碑の下手まで)300メートル近く、護岸上の小道伝いに見て歩いたが、下手側にはオレンジ色から赤色のものを多く見たが、上手側では緑色に近いような色のものが多くなった。
普通一般には、果実が若い内は緑色で、熟していくに従って赤味を帯びていくと考えがちだが、センニンソウの果実の場合、ヒゲの発達具合などを参考に判断すると、必ずしも熟すに応じた変色とばかりは言えないという印象で、不思議な感じがした。

果実はそれぞれが痩果で、やがて扁平な卵形になっていくようだが、ここでは皆同じような感じで、扁平化への兆候を見せているようなものは見当たらなかった。


一部にヒゲが全開しているような部分が見られたが、果実は未だ十分に熟した様子ではなく、もう一段経過後の種子を撮る必要性を感じた。


この緑色の強い傾向の果実群は上手寄りのもので、花柱が伸び出した段階と見られるものが多い一方、僅かながらヒゲの展開も見られ複雑な印象である。



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