<参考36>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花


     【オオバコ科】  オオバコ属 : トウオオバコ・オオバコ

 

トウオオバコはオオバコ属の中では大型の多年草で、夏には5,6本以上の本数の花茎を優に高さ50センチを超える高さまで伸ばす。
唐の字が頭に付く種名だが、実際には日本の固有種らしく(学名:Plantago japonica)、普通海岸に生えるものらしいが、ここは本羽田1丁目で多摩川の汽水域になる。
この辺りには古くからオオバコ類が見られたらしく、「川と干潟の道」ポイント3として「グランドの植物」という表題の看板が河川敷に残されていて、その真ん中にオオバコが載っている。この看板はもう擦れるほど古めかしいが、この看板の存在に気が付いたのは左の写真を撮った2015年7月のことで、いつ頃からあるものかは知らない。(この看板の位置は、2015年には既に草深い藪の中になっていて、立てられた当時の散策路は既に消滅してしまっている。)
看板はグランドの植物という表示で、ここに載っているオオバコはシロツメクサなどと並んでいることから、普通のオオバコのことを指しているものと思うが、古くからこの辺りにトウオオバコが見られたのかどうかは分からない。2015年現在までの近年の多摩川の汽水域では、この場所の水辺以外でトウオオバコを見たことはない。

発見は2015年7月20日、空港沿岸部にハチジョウナを撮りに行った帰りに、本羽田に立ち寄り、旧護岸の石組沿いに生き残っていたシオクグのその後を確かめ、種子を撮ろうとした時だった。5〜6月頃にはシオクグは良い状態で、小穂も多く認められた。ところが7月のこの日には、石組みの一帯はヨシに覆われてしまっていて、シオクグの様子を見るためには、ヨシを掻き分けながら暗い中を進むような状態になっていた。
シオクグも日照を奪われ、種子を残していたのは2ヶ所のみだった。下手側から分け入ったが、ヨシに覆われた中からやっと抜け出た場所で、護岸の縁にオオバコの化物のように大きなトウオオバコを一株見付けた。
この日はシオクグがすっかりヨシに埋没してしまった環境の変貌ぶりに、気持ちが捕らわれてしまっていて、トウオオバコはおざなりの撮影で済ましていた。

帰ってから図鑑を調べると、トウオオバコは唐大葉子と書くが、実は日本の固有種で、全国の日当たりのよい海辺に生息するという。トウオオバナが日本の固有種と知り、しかも多摩川の汽水域ではここでしか見ない珍しさもあって、7月25日に出直してこれをしっかり撮ることにした。左の写真は先日に全体を撮った時の先頭の1枚を除く、その後の9枚の写真は、5日後に出直した時に撮ったものである。

先日は慌てていたせいもあって、護岸縁の1株しか見なかったが、出直した日に周りを良く見回すと、近くには少なくともトウオオバコが4,5株はあることが分かった。
葉は先の尖った卵型で、全て葉柄を有する根生葉。引き締まって斜め上方を向いている。この辺りで見られた株は皆大体同じような大きさで、花茎も同じように5,6本は立てていた。一株中の花穂の進捗状況は一様では無く、未だ細く短く緑色一色の花茎もある一方、メシベを出し受粉を終えて、次に4,5本のオシベを出して長く伸ばし、葯を展開している花の花茎もあり、更に既に花を終えて子房が膨らみ始めた段階のものが鈴生りという花茎までが混在している。

一帯はヨシの侵食もあって、護岸の縁まで大型の草が生い茂って、トウオオバコの周囲も藪化して窮屈な状況にあった。レベルの立地条件としては、シオクグと同じ満潮時には冠水するような高さだが、ここではシオクグは既に追いやられてしまったような環境で、丈の高い種類の激しい競合状態になっている。
水際で足場は悪く、花枝が長いこともあって、全景をとるのは容易ではなく、幸か不幸か写真はズーム主体の撮影になった。

若い花茎に付いた花からは先ずメシベが出ることが分かる。

次いで花冠の先が4裂し三角形の花弁のように開く。オシベは4本、長い柄の先に葯を付けている。メシベが先行して出ているので、自家で葯が展開する時点までに、メシベは既に受粉を終えているものと考えられる。


花が終わるとメシベ、オシベとも枯れてしまい、子房が膨らんで萼の二倍ほどの大きさになっている。

刮ハは熟すと、上半分が蓋のようになり、これがが外れて、中の種子が弾けるようになっている。そのことからこのような刮ハは蓋果とも呼ばれる。


7月25日には未だ熟れた果実は見られなかったので、2週間後の8月10日に又見に行った。場所は把握していた積りだったが、この辺りだろうと見計らった位置で藪を掻き分け、護岸に出てみたがトウオオバコが見当たらない。藪が目一杯に張り出しう、護岸縁の通行は容易ではないので、諦めて一旦堤防側に戻り、前回の道順に従うべく、下手側から入り直すことにした。
下手側はどこから入ればよいか、これもはっきりしないので、幾らか安全をみて十分下手と思われる辺りで護岸に出ると、幸いにして、何とそこの水辺にも別のトウオオバコが3株ほどあるのを発見した。

汐を調べてはこなかったが、折悪しく上げ潮時で、護岸縁はもう半ば冠水していた。この新しい株は上手にあったものより幾分小さかったが、普通のオオバコと見間違うほどではなく、紛れもなくトウオオバコだった。既に花は終えていて、花枝の中にはかなり熟した果実も見受けられた。

上と左の2枚の写真はこの時見た株を撮ったもの。根元は水が来ていて接近はできなかった。葉は虫に喰われてか勢いが無く、敢えて足を濡らしてまでここの株で詳細観察をしようとは思えなかった。

左の写真はこの新しい株での花穂のズーム。多様な段階にある花枝が混在していることを示している。

これは中から比較的果実が若いものを選んで撮ったズーム。

これは逆に果実の熟成が進んで、蓋果上半分の蓋の部分が弾け、種子が飛び始めた花枝のズーム。

左の写真も新しい株の中から撮った花枝のズームだが、この枝はもう全ての刮ハで蓋が弾けて、種子が飛び切った後の残骸になった例。

新しい株で大雑把に撮り終えると、やはり前回までの株を見に行こうと思うに至った。そこで新たな発見のあった場所も出て、高水敷の少し上手側で藪を掻き分けて入り直し、護岸に被さるヨシの群落を潜り抜けるようなコースで、やっと前回のトウオオバコの位置に出ることが出来た。左の写真は前回初めて来た時に撮った株群の中の一株だが、やはりこちらにある株の方が大きくしっかりしている。

左の写真はこちらの方の株で撮った花枝のズーム。本質的には前のグループで撮ったものと変わりは無いが、こちらの株では種子が飛ぶほど熟した段階にある花枝は未だ見られなかった。
ただ惜しむらくは、花がもうどの株にも見られなかったことだ。

ここからの2枚は3日後の8月13日の撮影。この株は水際から少し上にあった株。

蓋果は熟して蓋が外れ掛かっているところ。この花枝は未だ緑色を留めているが、この辺は微妙で時期にも関連しているのだろうが、末期の花枝の色は、果実と同じ茶褐色になっているもの、脱色して白化しているものなど様々なケースが見られた。

ここからの4枚は、この年当地のトウオオバコを見る最後と思って、2015年8月23日に出かけて撮った写真。
予想通り既に蓋果が既に熟しきって、蓋を外しに掛かっているものが見られたが、予想外に若い果実も見られ、花後の様々な段階の果実が混在している状況に変わりは無かった。

左の全景は護岸縁の一株で、もう藪に囲まれて苦しい状況だが、これでも凌げるのか、来年はもう衰亡してしまうのか不安な状況だった。

ここからの3枚は護岸縁の株だけでなく、やゝ上の藪の中のものなども含めて、適当に撮った。各株とも10本前後の花枝を出していて、特にどの株がどのレベルということはなく、概ね一様に多彩な段階の果実を保持していた。

蓋果の蓋は褐色化してきているが、萼の部分は未だ軸と同じ薄緑色を留めている。このような段階でも、既に外れる蓋の境目は明瞭となって、如何にも外れるぞという気配が感じられる。

これはもう種子を飛ばしつゝある枝だが、軸がここまで白化している例は珍しく、枯色として褐色傾向になっていくものの方が普通と思われる。

 


 

ここからは、ご本家オオバコについて。オオバコはヘラオオバコのように堤防側で見ることはなく、河川敷のうち荒れ地に寄った側では結構普通に見られるが、地味な存在で目立たないため、この特集では取上げが遅れ、2015年もトウオオバコの方に注力している内に、花期を逸してしまい、花を載せるのは翌年送りになってしまった。

左の写真、上から6枚は2015年秋に大師橋緑地の上手側の端(本羽田1丁目)で、トウオオバコを撮りに行った2度目の時(8月13日)に撮った。グランドはここよりもっと下手にあって、ここは刈られた場所と藪化している場所との境界辺りで、かなりまとまってある場所だが、大師橋緑地は水側以外は殆どノーマークだったので、クサイの花、アカメガシワの雄株、イセウキヤガラ、シオクグなどを撮る際に、何度も通っていたため惜しまれる。(2015面の大師橋緑地関連では、堤防を昇降する坂路沿いの法面で、目に付き易かったため、チチコグサモドキを撮っていた。)

オオバコは漢字では大葉子と書くが、葉が殊更大きいということよりも、茎がなく根元が葉柄化した葉だけが、地上に這いつくばるように展開し、葉しか無いように見える姿から付いた名前という印象を受ける。
その格好から容易に推測できるように、踏み付けには強い一方、丈の高い草に囲まれてしまえば日照が得られない。従って存在場所は自ずと限定され、道脇などが主要な場所で、河川敷では散策路の近傍で芝やクローバーが途切れたような場所で、除草があって藪化しにくく、また人の通行があって踏み付けに弱いような種が生育しにくいような場所に展開する。
岸辺の散策路沿いの脇地でも、除草が見送られたりして踏み付けがなくなれば直ぐ藪化し、散策路自身が通行不能になってしまうケースも珍しくないが、逆に除草があって通路脇が低い草地になっているような場所では、オオバコの展開が見られるケースが多い。



2015年8月13日には、本羽田のオオバコには既に花は無く、花枝に密集させた果実を擁した花枝や、既に蓋を飛ばし種子を撒布し終えたものも見られた。規模はトウオオバコより遙かに小さいが、花枝の様子は双方に差は無いように思われた。


左の2枚は多摩川大橋上手の散策路脇で、撮影日は2015月11月28日である。
多摩川大橋の下周辺にオオバコがあるのは知っていた。然し本羽田で8月13日に既に花が終わっていたという経験が染み込んでいて、もう今年は遅すぎると思い込んでいたため、ろくに調べず通り過ぎていた。
やっぱりここも撮っておこうと思い直したのは、下手の非常時船着場でイヌタデを撮り、上手に向ってヒメツルソバを撮ったりしていた時で、折角通るところだからと思って撮ってみた。この辺は花期が遅かったようだが、もう11月下旬ということで、流石に花は無く花枝は果実だらけで、しかも茶褐色に熟し種子が飛んでいるものも少なくなかった。

ところが11月28日に、多摩川大橋から上手に向かい川沿いに行く小道で(ドウダンツツジのある裏辺り)で、何と花枝に瑞々しい色の若い果実を付けたオオバコが4〜5株あるのを見付けた。(左の2枚の写真はその時のもの)
この時期で未だこのような状態なら、10月過ぎ位でも十分花が見れたのではないかと悔やまれた。オオバコは地味な存在で花は気付き難いが、場所によって花期は差があり、トータルとして花期は相当長いということを知らされた。

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