<参考36>  河川敷の夏から秋にかけての草木と花


     【ヒルガオ科】  サツマイモ属 : アメリカアサガオ・マルバアサガオ・マメアサガオ・ホシアサガオ

 
2014年夏を過ぎる頃、多摩川緑地の上手側、西六郷3丁目から1丁目に掛けての堤防改修地域の護岸沿いの荒地に、アサガオらしいツル植物が結構あちこちに確認された。
朝早くから動くのは苦手なもので、早朝には中々出られなかった。然し実態を確かめるには朝のうちに行かないと花は窄んでしまうのでどうにもならない。止むを得ず9月2日に頑張って朝に出たものの、現場に付いたのは9時がやっとという遅さだった。

アサガオは奈良時代か平安時代の頃に、大陸から遣唐使が持ち帰ったものが起原とみなされるが、江戸時代に、キクやショウブと並んで園芸種として大変もてはやされたので、新たにアメリカ熱帯地方原産の外来種が導入され、独自の交配種も数多く誕生し、現在荒地に野化しているものがかなり見られるものの、古典園芸種であったアサガオがどの程度混じっているのかは全く分からない。

荒地に見られるようなアサガオについて、詳しく書かれているものに出会わないので、事情は殆ど分からないまゝだが、ネット上に出てくるものでは、アメリカアサガオという名前とマルバアサガオという名前が目に付く。
アメリカアサガオの葉は両側に深い切れ込みがある3裂型が特徴。ただし、中には切れ込みの無い葉のものもあるようなのだが、その場合はわざわざマルバアメリカアサガオと称するようなので、マルバアサガオとは葉をもって区別している訳ではないようで、マルバアサガオは全く別物ということになる。










 


 

 
西六郷1丁目から3丁目の地先区間、植生護岸の草地の中に、アサガオが広がっている場所は何か所かあるが、葉に深裂が無い方がかなり多い。
葉に深裂のある方は上にアメリカアサガオとして載せたので、ここでは丸葉の方を載せている。花の大きさはアメリカアサガオとほゞ同一で、色も青系統のものと紫系統のものが双方に見られる。しかも9時を過ぎる頃には、もう色褪せが始まってくるので、何が正確な色なのかも分からない状態で、花をもって何の違いも決められない。したがってこれがマルバアメリカアサガオなのか、マルバアサガオなのかは分からないが、一応マルバアサガオとして載せておくことにした。

撮影は2014年9月2日に引き続いて5日にも撮影に出たが、この日もやはり現地に着いたのは9時頃だったので、同じような撮影になった。上のアメリカアサガオもこのマルバアサガオも両日を特に区別せず、両日の撮影写真から適当に選別し混在して載せている。

マルバアサガオは熱帯アメリカ原産で江戸時代に導入された。色は青、赤、白の三色あるらしいが、この辺りの植生護岸の法面で見られるのは全て青、紫系のものだった。


マルバアサガオの花色は多彩で、紅色から赤紫、紫、空色、白色などがあるというが、この近辺の護岸に4〜5ヶ所ある群生地は全て空色種で、多少紫掛かったような色が散見される程度のバリエーションしかない。
マルバアサガオの花の色については、遺伝子的に優劣が無く、交雑するとF1個体は中間色の花の色を出すという。対立遺伝子の間に優劣が見られない場合を「不完全優性」、両親の中間の形質を持つF1個体を「中間雑種」と呼ぶ。

対立遺伝子がメンデルの説明にあるような優性・劣性の関係に無く、F1個体に親のどちらの表現型も現れず、中間的な表現型が現れる遺伝現象のことを「不完全優性」という。マルバアサガオの赤花と白花を交配させた場合、メンデルの優性の法則に従えば、赤花が優勢である場合には、赤:白=3:1になる筈で、仮に双方に優劣が無く、対等であった場合には、F1の花の色は、赤:桃:白=1:2:1 で発現さそうに思うが、実際にはすべてのF1の花は桃色になる。マルバアサガオのこの例は、メンデルの優性の法則の例外の実例としてよく引用されるようである。因みにこの桃色のF1個体同士を交配すると、F2では、赤:桃:白=1:2:1 で発現され、赤と白の間には優劣が無く対等であると分かるというが、F1ですべての個体が中間色を呈することが異常であり、F2の分布は普通に説明されるので、猶更F1の異常性が際立つ現象に見えることになる。)






 


 

西六郷の方にはアメリカアサガオとマルバアサガオが結構見られるが、南六郷の方にはそれらは無く、直立護岸の場所から六郷水門方向に続く護岸沿いの小道脇にマメアサガオが幾らか見られた。
マメアサガオは花の大きさがマルバアサガオなどの半分程度しかなく、花弁の直径は2センチ程度で色は白色。
左の写真12枚目までの花の撮影日は全て2014年9月14日で、時刻は8時10分から15分頃である。












左の写真3枚の撮影日は2015年11月21日。この年は偶然にも焼け跡に、10月下旬という遅い時期に繁茂したホシアサガオを撮った以外、9月初旬などアサガオの最盛期にはアサガオを撮りには行かなかった。

このマメアサガオの種子は、2015年の11月下旬に入る頃、南六郷でマユミの果実を撮り、ホシアサガオの果実を撮るなどした日に、偶々前年にマメアサガオを撮った護岸を分け入ったところ、クコの小枝に巻き付くなどしたアサガオの蔓を見付け、場所の一致や種子の大きさからマメアサガオと推測した。

マメアサガオの果実は細長く尖った星形の萼が特徴的だが、この日は時期的に既に果実というには遅く、熟した外皮がボロボロに割れて種子が露出したり、種子は無く殻の残骸だけが残っているというものも少なくはなく、萼片も既に枯れて縮れてしまっていたものばかりだった。


 


 

2015年10月の中頃、夕方に南六郷の川(塩湿地)沿いの散策路を歩いていて、雑色ポンプ所を過ぎ、直立護岸に出る前の辺りに草の丈が少し低くなった区域(確かここは2014年まではヘクソガズラの群生地だった所)に、ロート型の直径が(推定)2センチ弱程度の大きさのピンク色の窄んだ花が多くあることが気になっていた。
窄んだ花は、花弁の先が巻き込まれてしまっているので、定かではなかったがアサガオのような印象を受けた。然し、今まで河川敷側の散策路沿いの草地でアサガオを見たことは無く、もう10月も終わりに近づいていた時期だったので、アサガオというのはチョットどうかと思ったが、他に想像できるものがなく、朝早くに来て見るしかないと思っていた。

昨年ここより少し下手の、直立護岸を過ぎて六郷水門に向かう辺りの、低水護岸の岸沿いの道脇の草地でマメアサガオを撮ったが、その時期は9月初旬に西六郷の安養寺方面でアメリカアサガオやマルバアサガオを撮った直後で、9月中旬だったので、10月下旬という朝夕に寒さが入り込むようなこの時期に、アサガオ?というのは正直半信半疑だった。
朝から動くのは弱いタイプなので、何かと先延ばしにしていたが、10月28日に一念発起し朝起きして花を撮りに行った。 やはりアサガオのようだったが、結構広い範囲に、今を盛りと咲いている一方、もう実が出来ている枝も結構あった。花はピンク色だったが、ロートの底は赤紫が濃く、葯は白いなど、特徴はホシアサガオによく似ていた。
ただホシアサガオは西日本に多く分布しているとされ、ネット上でもこれを載せているHPは皆関西方面のサイトばかりというのが現状。マメアサガオにも赤いものがあり、関東ではベニバナマメアサガオをホシアサガオと見間違う人が多いという記述もあったりする。

左に載せた上から10枚の写真は全て、2015年10月28日に撮ったものである。この日は珍しく早く起きれて、現地に着いたのは7時少し過ぎた時点だった。
それにしても何故このように遅い時期にアサガオなのか。巻き付いている相手は殆どがコセンダングサでオオオナモミも低いものは少し見られた。結構広い範囲一面にピンク色の花が咲いて見慣れない光景だった。





何度かこの場所を見ている内に、ここが数か月前、或は1年以上前だったかも知れないが、この一画が焼けた場所ではなかったかと思い出した。
それまでここにはヘクソカズラ(ヤイトバナ)のまとまった群集があって、何度かここでヤイトバナの花や実を撮影していた。焼けた幅は川に沿って50メートル程度で、散策路から低水護岸までが完全に焼けていた。HLが居る場所ではなく、意図的に焼く意味も考えにくいことから、何故焼けたのか原因は思い当たらなかった。
この焼けた範囲の中央部の護岸縁に中程度のオニグルミの木があり、そのオニグルミを頼りに、この辺りでは珍しいテリハノイバラが立ち上がっていて、その花も撮った記憶があった。テリハノイバラはこの火事によって焼けて枯れてしまったが、オニグルミの方は幹の表皮に焼け痕は出来ていたが、その後に生き残ったことが確認されていた。

火事のことを思い出したので、この範囲をもう一度よく見直してみたが、ヤイトバナの影は全く見付からず、ほゞ同程度の規模にホシアサガオが広がっていて、ヤイトバナがすっかりホシアサガオに置き換わったような感じだった。
オニグルミの方は、護岸際にそれらしい木があったが、表皮に焼けた痕跡などは認められず、焼け残ったあのオニグルミであるのかどうか断定は出来なかった。
時期がこんなに遅く、しかしかなりの広範囲に、あまりポピュラーとは言えないホシアサガオが何故咲き群れているのか、不思議としか言いようがない。焼け跡なればこその攪乱気味の生態であるのかどうか、そのことは2016年を見てみなければ何とも言えない。

左に載せた写真2枚も2015年10月28日に撮ったもので、この時花と共に既に果実も沢山出来ていた。
若い果実は白っぽく、萼は果実を抱くように上を向いている。


左に載せた写真から下の5枚は2015年11月21日に撮ったもので、花を撮ってから一か月弱経った時期になる
広くホシアサガオの果実が展開するこの一画では、白っぽく未だ日が浅い果実から、熟しきって茶色くなった、種子の出現間近と見られる、ヒビ割れが入り掛かったものまで、多様な段階の果実が見られた。





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