<参考36>  河川敷の夏から秋にかけての草木と花

 
     【タデ科】  イタドリ属 : イタドリ

 
左の写真はこの特集の大改修にとりかかった年(2013年)の秋に撮ったもので、未だ辺りの植物類については知らないことが多い時期だった。(上の4枚は9月28日で、その下の3枚は翌29日の撮影)
場所は六郷橋緑地の川沿いの散策路沿いの荒地で、雑色ポンプ所よりは上手の位置。この日は六郷水門の方からの上りで、オナモミやセンダングサ類を撮ってきたが、雑色ポンプ所を過ぎた所に白いヒガンバナがあって、これがメインの対象だった。これを過ぎると道脇の荒れ地の中に何やら白い花が目立ったので近づいて撮った。この場所にイタドリが結構多くあったことは記憶にあったが、イタドリの花がどんなものかは知らない頃で、こんなところにあったという記録の意味で周囲の雰囲気を撮り、白い花はこれが花だと思ってズームも入れて結構撮った。

 
然し後になって、これは花ではなく、果実だと知った。

イタドリはタデ科の多年草で、原産地は東アジアだが、19世紀に園芸花卉としてイギリスに輸出されたものがもとで、各地に散らばったものが地下茎を伸ばして侵略的な外来種として大きな被害を出すに至り、現在ではクズやチガヤなどと同列に、国際自然保護連合(IUCN)の種の保全委員会が選定する「世界の侵略的外来種ワースト100」に載るような存在になっている。

2015年現在の多摩川の沿川部では、イタドリが下流部から中流部に掛けて広く目立つようになり、外来種の植物園のような植生の下流部では、未だアレチウリほどの悪者という感覚では受け取られてはいないが、中流部では駆除の対象とする動きなどが出てきているようだ。

汽水域近辺では、堤防法面でも目にする機会が増え、春から夏頃は他のものより大きくなるため気が付き易い。ただ堤防は定期的な除草が行われるため、大型に育つまで存続せず花を見ることは無いので、多くなったとはいえイタドリ本来の姿を確認するまでには至らない。

六郷橋緑地先の荒地側にあるイタドリは刈られることはないので、例年同じ場所で花が見られるが、元々荒れ地の中なので立地環境は良いと言える場所ではなく、生き続けてはいるものの、勢いがあって増殖しているという印象では無い。
イタドリは肥沃な土壌では2メートルほどの丈になり、茎は太く中空で節があり竹のような感じの茎になるというが、ここではそのような印象を与えるような姿に生育しているとは言えない。

イタドリの特徴の一つに、茎に見られる赤い縞模様がある。茎は細いものにも、一定間隔で節のような出っ張りが生じ、その部分が紅く色づく。この独特な印象によって、素人でもイタドリを見分けることが出来る。ここのイタドリでもこの特徴は顕著に認められる。

左は若い果実のズームだが、果実には3枚の翼があることが分かる。

左の2枚は翌年の2014年4月10日に多摩川緑地前の堤防法面で撮った。芽生えたばかりの新芽は赤紫色をしている。
この時期は木本のアカメガシワも新芽を出す季節で、アカメガシワの場合は同じ赤でもやゝレンガ色掛かったような赤だが、イタドリの場合は紫色掛かったような赤だ。
いずれにしても、若い新芽の時期に見られる赤色色素(アントシアニン)は、紅葉や果実の熟した場合のように、1年の活動の終期に生成されるものとは全く意味が異なる。新芽時のアントシアニンは、未だ未完成な葉緑素を守るために、紫外線による活性酸素の発生を防ぐためのフィルターのような役割を果たすもので、葉が十分に成長してくるとアントシアニンは退化し、葉緑体の葉緑素が直に現れて緑色を呈するようになる。


左の写真2枚は、上が2014年4月26日、下は同年5月1日の撮影で、場所は多摩川緑地から上手側の多摩川大橋へ向かう途中の堤防法面。
上の赤い新芽を撮った場所とは少し離れているが、時期的には上の赤い新芽から2週間乃至20日ほど経った後ということになる。この頃のイタドリはもう緑一色で、葉が大きく丈が出てくるだけに堤防法面では目立つ存在になる。
これらの法面のイタドリは最初の除草時期までの存在で、地上部はこの後何度も刈られるので、大きく成長することはなく、やがてセイバンモロコシが全面を被う時期になれば存在感は無くなる。


2014年は南六郷の荒地のイタドリで、前年に撮り損ねていた花を撮ろうと注意をしていた。
左の写真は2014年9月9日の撮影で、場所は前年に果実が枝垂れるほど見られたところと同じ六郷橋緑地先の荒地。 花は開いた感じではなかったが、早い内にと思って撮ったのがこの写真で、近づいてズームで撮ったものが下に載せたものである。

こうしてズームで見れば、花は正に開きつつある段階であることが分かった。この時にはイタドリが雌雄異株であることを知らなかったので、もう少し経ってからまた撮りにくればいいと軽く考えていた。(実はこの写真1枚が2015年までの撮影の内で唯一の雌花の写真だった。)

左の写真は上の撮影時から2週間近く経った後の9月22日の撮影。この時は花をしっかり撮ったという満足感で帰ってきたが、実はこれはオシベがはっきり飛び出して見えていて雄花だった。

左の写真は5日後の9月27日の撮影。この日は他にも何枚かイタドリの花をここで撮ってきたが、帰ってから見てみると、いずれもピントがイマイチで載せれるものはこれ一枚という有様だった。然し写りの悪い写真の花も、全てオシベが明瞭に確認でき、この日の撮影も撮っていたのは皆雄株だった。

左の4枚の写真は、上と同じ南六郷地先の荒地で、撮影日は2015年9月11日。この日も未だ十分に開花しているという印象では無かったものの、花数は十分あって結構撮った。
然し下に2枚載せたが、ズームで撮ったものをよく見ると、今回の場合も皆オシベが明瞭で雄花だったことが分かる。

これは余談になるが、アンチエイジングに効く?として話題になったレスベラトロールというサプリメントがある。(天然のトランスレスベラトロールが主成分で、ポリフェノールの一種であるが、よく聞く抗酸化作用のほかに、男性ホルモンの一種であるテストステロンの生成を促進、乃至はその代謝を抑制する作用があり、テストステロンの不足に起因する諸症状に効くとされる。)
サプリメント類は健康保険制度が整っていないアメリカで、病気予防の観点から開発され販売されているものが多いのが実態である。トランスレスベラトロールを抽出するための主要な原料はブドウの皮や赤ワインなどであるが、トランスレスベラトロールはイタドリからも抽出出来ることが知られていて、実際にイタドリから抽出されたトランスレスベラトロール入りのサプリメントが多く出回っている。(ブドウやワインからの抽出では高価になるため、一粒あたりのレスベラトロール含有量が多い割りには安価で売られている製品では、イタドリを原料にしているケースが多いとされる。)
(サプリメントの選択時には添加物のチェックが欠かせないが、天然原料から有用成分を抽出する場合、日本の食品衛生法では、毒性を持つアセトンを使用することは禁止されており、水乃至エタノールで抽出したことが明記されているものを選ばなければならない。)

日本ではサプリメントは健康食品の範疇に含まれ、厳密に医薬品とは違うものとして薬事法で一定の規制を受ける。一方アメリカでは臨床医が用いるためのサプリメントが開発されるなど、医療の現場で医薬とサプリメントは日本ほど厳格に区分された扱いにはなっていないように見える。
何故か、イタドリから抽出されたレスベラトロールサプリメントは、日本では認可されておらず違法な存在である。(イタドリの根は日本では生薬として使われていた経緯があり、イタドリを原料にしたものは医薬品扱いとなる。そのためサプリメントを食品として扱っている日本では、イタドリはサプリメントの原料には使えない・・・という説明を見たことがあるが、それが日本の厚生省がイタドリから抽出されたレスベラトロールサプリメントを認可していない本当の理由であるのかどうかは知らない。)
アメリカでエビデンス(臨床実績)が明確となったサプリメントが、日本国内でも追随して作られるケースは少なくないが、インターネット通販では、個人輸入という形を採って直接購入できるものが多い。レスベラトロールサプリメントも直輸入の形で入手できるものが普及していて、レスベラトロールの含有量が多いものでは、イタドリを原料に抽出されたトランスレスベラトロールが使われているケースが殆どと言っても過言ではないようだ。

2016年に入るまで、タデ科の全体が未整理のまゝで、イタドリの項もコメント欄が空白なままだった。そのため雌花を撮り損ねていることに全く気が付いていなかった。2015年の春にスイバを撮り、スイバを掲載することをきっかけに、2016年の初めにやっとタデ科の整理に取掛り、これまでのイタドリの撮影に落ち度の有ったことに気が付いた次第である。
2016年は初秋から忘れずに必ずイタドリをウオッチし、徹底的に雌花を撮るという課題が明瞭になった。

ここからの3枚は2015年9月22日に羽田空港敷地沿岸部の護岸で撮ったもの。ここは慰霊碑のある場所から河口方面に向かって、200メートルほどの間、護岸縁に沿ってセンニンソウとヤブガラシの混生した群集が続く。その中にママコノシリヌグイなど見慣れた花も僅かに混じっていたが、そうした植生環境の中でいきなりこれが現れた。
この日当地に出かけた主要な目的はセンニンソウの果実を撮ることだった。この辺りは何度か来ているとはいえ、季節は様々で普段見慣れた場所と言えるほどではなく、いきなり現れたこの植物は、木本とも草本とも分からない雰囲気で、感覚的に目新しい種類に見えてしまった。

この特集の指導をお願いしている専門家に「目新しい植物ですが、これは何という種類でしょうか」とお聞きしたところ、「これは花を終えた直後のイタドリですよ」という教示が返ってきてハッとした。多摩川緑地や六郷橋緑地の沿川部の荒地には、このように伸び伸びと枝を出し葉を広げているイタドリは無く、その点で見慣れた姿では無かったが、イタドリですよと言われて初めて、この植物の花枝にイタドリに独特な赤い節が見えることに気が付き、これまでの観察がいい加減なものであったとその未熟さを恥じた。
この写真はイタドリの紹介としては余り意味の無い写真だが、上記のことがあって、私にとっては忘れられない戒めの写真になった。3年間イタドリを撮ってはきたが、関心は薄くマイナーな扱いで、いつも形式的に撮っていたに過ぎず、深く観察することが無かった。この写真は、そのことを気付かせ大いに反省するきっかけとなった写真ということで敢えて載せておくことにした。

このことを機会に、これまでのイタドリについて真剣に振り返ってみた。南六郷地先のイタドリは2013年に鈴生りになった果実の撮影から始まっている。ということは雌株があったということを示している。然しその後、2014年、2015年と2度同じ場所で撮った花の写真はいずれも雄花だった。
これまでの観察では、その辺りの事情がどうなっているのか、見極めようともしていなかった。よく見れば、2014年の咲き始めの花を撮った中の、未だ開き切っていないが・・・として載せている写真にはオシベの目立ちが無く、その点でこれが雌花であった可能性がある。
つまりあそこには雌株と雄株の双方があり、それぞれの花期は微妙にズレている可能性があるのではないか。それらの点の解明を含め、2016年にはきちっとした観察を行うという心積もりをした。

 


 
     【タデ科】  ソバ属 : シャクチリソバ

 
シャクチリソバはカシミール地方を原産地とし、インド北部、ブータン、ネパール、中国雲南省などに自生するタデ科の多年草。日本には明治時代に薬草として小石川植物園に導入されたが、その後種子が飛散して各地で野性化し、外来種に伍して河川などに繁殖している。
薬草としての原典は、「本草綱目」(16世紀に明朝の李時珍により編纂された)にある「赤地利」で、これにより和名も牧野富太郎により赤地利蕎麦と命名された。
シャクチリソバはソバ属に属するが、種子は食用にならず、葉や宿根が薬用にされる。秋に白い花を付け冬場は地上部は枯れるが、春に同じ場所に地上部を出し、ほゞ正三角形(尖ったハート型)の葉を密に展葉し、こんもりとまとまった姿格好になる。

多摩川の汽水域でシャクチリソバに初めて気だ付いたのは、2013年10月6日で、場所は多摩川緑地の上手にある大田区民広場の澪筋側にある草地。ここは旧護岸が関東大震災(?)か古い時代に崩落したまま改修されておらず、低水路の岸辺にテトラポッドが並べられるなどしたままの状態になっている。
岸辺の散策路と水路の間は、六郷の橋梁群から上手側には、多摩川緑地がゴルフ場だった時代の名残の玉止め用の土手があり、今では土手の上にはHRの居宅が続き、所々で本流が覗く場所があるという状況だが、区民広場まで来ると土手も消滅し、丈の高い草の群落が途切れると、本流側が開けた場所になる。シャクチリソバはそんな場所で見られた。

2013年10月6日は始めて見る花の解明のため、花のズームに重点を置いて撮影した。そのため10月9日に再度出直して全体の様子や葉などを撮った。
左の写真は上から3枚は10月9日の撮影。

左の花の写真は、上から4枚目から8枚目までの5枚は10月6日の撮影。、その下の2枚は10月22日、その下の1枚は11月16日の撮影。





10月初め頃は西六郷地先のシャクチリソバを専門に撮っていたが、その後多摩川大橋上手の岸辺の散策路際(ドウダンツツジの裏手)にも綺麗なシャクチリソバの花が群れているのを発見し、そこでズームを撮った。左の2枚は2013年10月22日に多摩川大橋上手のシャクチリソバを撮ったもの。


左の写真は再び西六郷地先のシャクチリソバで、撮影日は2013年11月16日。そろそろ花は勢いを失ってきているが、この花の花期は結構長いことが分かった。

2014年秋には、前年に見付けたシャクチリソバをもっと詳しく観察しようと思っていたが、春に護岸縁を歩いていて思いがけずシャクチリソバを見付けて驚いた。
左の2枚は2014年4月19日に、多摩緑地から多摩川大橋に向かう途上、低水部植生護岸の中間部にあるものを撮った。花は秋10月頃なのに、もうこの時期かからすっかり出来上がっているのを見て奇異にさえ感じた。


左の1枚は同じ護岸上からだが、上の株より少し上手に進んで、トミンタワーの前あたりの株を撮った。撮影日は2014年7月14日で、上を撮ってから2か月近く経って夏に入ってきているが、周囲の草丈が伸びて環境の雰囲気は変わっているが、シャクチリソバ自体の様子には大差は感じられなかった。

左の写真、ここから4枚は2014年10月9日の撮影で、場所は多摩川大橋上手で、矢口橋との中間辺り。この日はクズの果実(サヤエンドウとソラマメの中間程度の大きさ)を探していて、偶々近くに咲いていたシャクチリソバの花を撮った。




ここからの2枚は、多摩川緑地の澪筋側の土手で撮った。2014年11月3日の撮影で、この日は六郷橋から上手に向って多摩川緑地の澪筋側の散策路沿いに、ゲンノショウコ、クコ、ピラカンサの果実を見て歩いたが、花はノゲシが多く、そんな中にこのシャクチリソバの花があった。
この年はここまでで、2015年はシャクチリソバを全く撮っておらず、2016年にはシャクチリソバを実まで追いかけて撮っておくことが課題として残った。


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